Strange Feel A

「話がある」

要約するとそのような内容のメールと通信が、イオリ、かすみ、ティルト、ミリエッタ、フレイ、ルリ、ロミオの7人に届く。
指定場所であるリヒャルダのラボに集められた7人は、久々の再会になる面子が多いこともあり、話が始まるまで雑談に花を咲かせていた。

最後に現れたロミオを他の面々がからかったりしている中、呼び出し主であるマリン――今はリンと呼ばれているが――が両手を叩き、話を切り出した。


マリン  「はいはい、色男の挨拶もそこそこだけど、時間が惜しいから本題を話すわね。 良いかしら?」
ルリ   「ん、うん」
ティルト  「うむ、そのために来たんじゃしのぅ」
かすみ  「あ、ええ。そうね」
イオリ  「はーい」
ミリエッタ  「ぁ、はいっ…」
ロミオ  「…ん」

それぞれが話を切り上げ、一斉にマリンに視線を向ける。
注目を受けたマリンは、人差し指を唇に当て少し考える動作を見せると、世間話でもするような軽さで口を開く。

マリン  「えーと、一言で言うとね……」



マリン  「――わたし、アークスクビになったっぽい?」



ロミオ  「…なんっ」
ルリ  「……!?!!?」
ミリエッタ  「…えぇっ!?」
イオリ  「っ……!?けほっ、けほっ」
ティルト  「……ふむ」
かすみ  「え……そ、そうなの?」
フレイ  「……?」

オレンジジュースを噴出しかけるイオリを始め、多くのメンバーが驚きの表情を見せる。

イオリ  「あ、アークスにクビなんてあったんだ……」
かすみ  「確かに……私もあんだけサボっててクビに……」

驚くポイントにも色々とある中で、あくまで冷静にフレイが確認を取った。

フレイ  「どういう意味だ?」
マリン  「いやー、同士を刺した、みたいな罪状? でね。 何処から伝わったんだか……」
ロミオ  「……」
かすみ  「え、刺した……?」
ティルト  「……」

特に悲嘆している様子もなく、実に軽い様子で「リン」は話を進める。

マリン  「っていうかアレは「わたし」じゃないっての!勝手に猫とじゃれてただけだっての! 良い迷惑よ!」
フレイ  「……」
ルリ  「……そんなに軽く話す内容でもないけど……!」
マリン  「まぁ、正確には謹慎だけどね。 期限はないから、解けるかどうか。」
ロミオ  「…大兄様が報告でもしたんだろうか…」

きっかけとなった問題の「事件」が起きた時、現場に居合わせた者はそう多くない。
リンの説明は状況説明として明らかに不足だった。当然疑問の声が上がる。

ミリエッタ  「…ええと、状況がまだ、よく飲み込めていないのですが…アークス同士で戦闘になった、という事でしょうか…?」
かすみ  「あ、私も状況がいまいちっ」
イオリ  「あの場にいなかった人には、説明してあげないとわからないかもー?」
ティルト  「そうじゃな……もう少し説明が欲しいところじゃな」
ルリ  「……そう、ですね。戦闘というか……」

事情を知る1人であるルリが、困ったようにリンに視線を向けた。
それに対して首を振り、詳しい補足をすることもなくリンは話を続ける。

マリン  「良いわ、ルリ。時間が惜しいから説明は後。」
ルリ  「う、うん……」
マリン  「今日集まってもらった理由はそれを報告するためじゃないの。それより重要な問題なの!」
ミリエッタ  「は、はぁ…。それより重要な、ですか…」
ティルト  「ん、聞こうか」
かすみ  「え、これよりも重要な話があるの?」
かすみ  「(私だったら焦るけど……クビ、チアキがクビになったらどうしようかしら……パートでもするかしら……)」

マリン  「そう。本題はね……」

謹慎を受けアークス資格を失ったというだけでも重大な筈だが、それすらも前置きに過ぎない重大な用件があると彼女は言った。
それに相応しく、というべきか息を吸ってたっぷりと間をとり、他のメンバーも真剣な面持ちで次の言葉を待つ。




マリン  「………………暇なの。」




ルリ  「……ひま」
ロミオ  「……」
イオリ  「重要だねー」
かすみ  「……ふぇ?」
ティルト  「……」
ミリエッタ  「……えぇ、っと……」

呆れる者、リンに抱きついたまま笑って頭を撫でる者、黙って煙草を吹かす者など反応は様々。
まくし立てる様に彼女は続けた。

マリン  「そう、暇! 急に仕事辞めさせられたら暇で仕方ないに決まってるわよ!」
フレイ  「………………まあ、そんなこったろうと思ってたぜ…」
マリン  「と、いうわけで、集まった理由はこれよ。これ!」

いつの間にか手に持っていた教鞭で、後ろの黒板をばしばしと叩く。
そこに適当な字で書かれていた文字は、


「第一回肝試し大会」


ロミオ  「……」
イオリ  「わっ、わっ……きもだめし!?」
かすみ  「ど、どれよ?なんかいっぱい書いてあるけど……え?肝試し?」
ミリエッタ  「えっ…?肝試し、ですか…!?」
ルリ  「きもだめし……きも?」
ティルト  「また子供だましじゃのぅ……」

唐突すぎる単語にまたも様々な反応が飛び交う中、終始リンの背中に抱きついて話を聞いていたイオリがするりと離れる。

イオリ  「ちょ、ちょっと用事思い出したかもー」
ミリエッタ  「わ、イオリさん…?!」
マリン  「あら、特等席はどうしたのイオリ」
イオリ  「ひぅ!?」

すかさずリンが捕獲した。

ティルト  「いおりんは友人の悩み事をすっぽかしたりせんじゃろう?ん?」
マリン  「子供だましを笑うものは子供だましに泣く、よ。 こんな話があるわ……」

その言葉と同時にリンが軽く指を鳴らすと、ラボの照明が落ち、その場が真っ黒になる。

イオリ  「うぇっ!?な、なにっ?なにっ?」
ミリエッタ  「わわっ…!?明かりがっ…!」
ロミオ  「…っ」
ルリ  「ん、っ? 」
ティルト  「(いおりんみてるだけで暇は潰れそうじゃな……)」

ストレートに慌てるイオリとミリエッタ、反射的に手を握るロミオとルリ、呆れたように遠い目で窓の外を眺めるフレイ。
同じアークスとは言えこの手の耐性はそれぞれである。

マリン  「今から、10年、15年ほど前……ある裕福な家庭に体の不自由な娘が住んでいたとか……」
イオリ  「いい!やっぱり言わなくていい!!!」

急に声のトーンを落とし、リンの怪談が始まる。
1人だけ露骨に怖がっているイオリは、リンに掴まれていない側の手で必死に耳を塞いでいた。

マリン  「娘は、自分の足で元気に走り回るのが夢だったんだけど…ある日、残酷にもダーカーに殺されてしまったの…」
マリン  「それから、その娘の家族も引っ越してしまって… 誰もいなくなったその家に夜、近付くと……」
ルリ  「(結構最近の話なんだなぁ……)」
ミリエッタ  「………。」
かすみ  「ふむふむ」
ロミオ  「……」
フレイ  「……」
ティルト  「……」
イオリ  「あ、アー、ソウイエバ洗濯物ホシッパナシダッタナー」

現実逃避しているイオリ以外は、比較的真面目に怪談を聞いていた。
あまりにテンプレートが過ぎるせいか、怖がっているのは少数で、オーバーに怖がるイオリの様子を楽しんだり、別の事で思案する者が多いようだが…

マリン  「赤い、長い髪の女の子が座り込んでいるの……それを見た人間が、助け起こそうとすると……」
イオリ  「わかった!!もういいから!!」
かすみ  「(イオリちゃん可愛いわね……私もああいう反応した方がチアキは好きかしら……)」


マリン  「「お前の体を頂くぞーーー!!」」

締めとしてはお約束と言うべきか、急に大声を部屋中に響かせながらイオリに指を突きつける。

イオリ  「ひあぁわああっ!?」
ロミオ  「……」
ルリ  「わぁ」
ミリエッタ  「わわっ…!?」
かすみ  「だ、大丈夫?イオリちゃん……」
フレイ  「……リン、あんまりいじめるなよ」
ティルト  「(うむうむ、かわゆい反応じゃのぅ)」

両手を抱えて蹲ってしまったイオリ以外、ほとんど驚いていなかった。


マリン  「……って、カンジのことがあったとかなかったとか。 で、今日はそこに行ってもらうわ。」
イオリ  「なんでそんなとこ行くのっ!?」
ルリ  「……そこに行って、赤い髪の女の子見てくるの?」
ロミオ  「…そ、そんなもの…」
マリン  「見れたら面白いわね。 ま、さっき下見して、目印にバッジ置いてきたから、それをとってきてもらうことにするわ。」
ティルト  「ふむふむ、それが肝試しということか」
ミリエッタ  「ダーカーに殺された女の子の幽霊が出る家、ですか…ぅ~~…」
ルリ  「……(……赤い、髪?)」

いつの間にか照明が戻り明るくなった中で、ぱしぱしと教鞭を手の中で叩き、肝試しの説明を続ける。

マリン  「ほら、いつまで蝸牛になってるのイオリ。大丈夫よ、2人1組だから。」
イオリ  「うぅー……」
フレイ  「大丈夫なのかそれ、フホーシンニューとか…そういうの」
ティルト  「しかし謹慎中の……リン?はいってもよいのか?」
マリン  「大丈夫大丈夫!というかさっき行ってきたし。じゃあ、ペア組むわよ?」
かすみ  「え、行ってきたの!?」
ロミオ  「……」
イオリ  「私はかたつむりでいいのでここで待ってるー……」


リンの指名、そしてラボに何故か置いてあったサイコロにより半ば強引にペアが決められ、8人のアークスによる奇妙な肝試しが始まる。



  • 最終更新:2015-09-28 19:42:01

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