Nightmare Fiction 3

時を同じくして、シャーレベンチーム拠点。
激しい破裂音、爆発音が立て続けに響き、戦闘の激しさを物語っていた。

空中に無数に展開された光球から、一点を狙い次々と矢が射出される。
床や備品を貫き噴煙を上げながら、掃射される光矢が追う先は、鮮やかに駆け、跳ぶ人影。
破壊を厭わず、尚も殺到する光矢の群を二振りの飛翔剣が叩き落し、続く第二波が射出される前に、フォトンブレードが光球を貫く。
巻き上げられた噴煙を割って飛び込み、一気に肉薄したマリンの剣と、迎撃するスコールの剣が、重い金属音を響かせ激突した。

マリン   「っ…………」

至近距離で交差する、同じ色を持つ瞳。
そこで止まる事無く、二刀を生かした連撃を叩き込み、飛翔剣のラッシュをマリンが仕掛ける。
熾烈な追撃に関わらず、スコールは抜剣ひとつで悉くを防ぎ、金属音が何度も拠点に響き渡った。

スコール   「思った以上にやるね。少し剣が素直すぎるが、それでも期待以上だよ」

その表情は依然変わらず、感情の読めない薄い笑みを浮かべたまま。
それを見たマリンは、対照的に表情を険しく引き結ぶ。

マリン   「……私と戦闘するのも、フレイさんを傷つけるのも、貴方にとっては遊び同然ということですか?」
スコール   「そんなことはないよ。仕事は仕事、戦闘は戦闘、ゲームはゲームだ。」

問答を交わしつつも、二人が手を緩めることは無い。
キン、キンという金属音が何度も響き、飛び交うフォトンブレードや光矢が拠点の床を抉る。

スコール   「だが、趣味やゲームでなければ楽しんで物事を為してはいけないという道理は無いだろう?
        快楽を求める事そのものは悪ではない。何事も楽しめるのなら、それに越したことは無いのではないかな?」

抜剣による、横薙ぎの鋭い斬撃。 至近距離のそれをバックステップで避け、マリンが距離をとる。

スコール   「真剣勝負である命の奪い合いに快楽を見出す。 それは君も同じだと思うけどね。」
マリン   「違う!!」

普段声を荒げることのない、マリンの強い声が拠点に響き渡る。
琥珀の瞳を鋭く細めた彼女の鋭い剣戟が、再び怒涛の速さをもってスコールを襲う。

マリン   「例え目的が何であろうと、それに伴う犠牲を無視して良いわけがない!!
       増してやそれを楽しんで行うなど、絶対に許されない! 貴方達の行為に義があると思っているのか、スコール・ホワイトッ!!」
スコール   「生憎、正しさの判断に興味は無くてね。 善と悪、純にどちらかでしかない物事の方が少数だろう?
        総合的に見て正しいか、など誰かに決めさせておけば良い。 当人同士が正しい、間違いだなどと喚き合う事こそ、不毛なことだ」

ガキン、という金属の打撃音。
周囲の瓦礫も吹き飛ばす余波と共に、二人は再度距離を空ける。

マリン   「貴方の言葉通り、問答は無意味のようですね。如何あってもわかりあえないのなら、武力で貴方を倒すだけ」
スコール   「そうかな? 同類同士、通じ合うことはあると思うけどね。何せ、同じ血を分けた間柄だ」

スコールの言葉。 その真意を図りかねて、マリンは瞼をぴくりと動かす。

マリン   「……どういう意味ですか?」


スコール   「ん? 雇い主は本人に教えていないのか。 やれやれ、どういう意図なのか知らないが……
        君の本来の――拾い上げられる前の姓は、ホワイト、と言う。つまり、そういうことだよ」


マリンの琥珀、それに映る相手と同じ色を宿した瞳が見開かれる。
瞳孔が開かれたその瞳が、ぐらりと揺れる。

マリン   「……馬鹿な。 ……貴方と私が、血縁である、と?」
スコール   「考えはしなかったかな? 君の母親が雇ったのが、何故私なのか。
        娘のためという個人的な目的に、身元も知れない赤の他人など積極的には目をつけないさ。」

マリンの頬を、大粒の汗が伝うのが見てとれた。

スコール   「つまらない話をしたね。君の望み通り、武力で決着を着けようか。」
マリン   「っ……!!」

止まっていたスコールの剣が、それまで通りの速さで再びマリンに襲い掛かる。
対するマリンの剣は、切れと速度をはっきりと失い、危うい所でキン、キンとスコールの剣を受ける。
動揺が剣筋に出ているのは、もはや誰の目にも明らかだった。

そして、上から振り下ろされる抜剣をギリギリの所で、両手の剣により受け止めた際に生まれた隙。
鞭のように撓るスコールの蹴りが、まともに、鋭くマリンの脇腹を捉えた。

マリン   「……っが……、は……っ!!」

くの字に折れ曲がるマリンの身体。凄まじい勢いを持って、背後の壁に叩き付けられる。
骨が軋む音と、低い呻きが聞こえる。逆流した胃液が、その唇から吐き出された。
たかが蹴り、では無い。一切の防御なしにまともに入ったそれは、少なくとも意識を刈り取るのに十分と言えた。

スコール   「……失敗した。無駄話をしなければ、あと数手は楽しめただろうにね」

心底後悔したという表情で、ふぅ、と溜息を吐きながら、ゆっくりと倒れたマリンに歩み寄る。
壁に寄りかかるような形で倒れたマリンの身は、ぴくりとも動く様子が無い。
乱れた髪に隠れて表情は窺えないが、意識は完全に飛んでいるだろう。

無防備なその首元に、近付いたスコールが抜剣の切先を宛がう。そして、それを握る手に微か力を込めて―――


その首につけられたチョーカー"だけ"を、斬り外し拾い上げた。


スコール   「まぁ、任務は完了ということで、良しとしようか」

その手の中で薄く光る、チョーカーに填められた紅玉。それを収めると、あっさりと身を翻す。
だが、何事もなかったかのように去ろうとしたその足が、不意に止まる。

マリン   「…………かえ、……して…………」

ほんの微かに聞こえる声。スコールが振り返れば、完全に意識を失ったはずのマリンの手が、自信の足首を掴んでいた。

マリン   「……それ、だけ……は……、……わたせ、……ない……」
スコール   「……悪いが、決した勝負をずるずると引き摺るのは好きではなくてね。」

マリンに向き直るスコール。
しかしその時、拠点の入口の方角だろうか。 "マリン"、と叫ぶ声が、小さく聞こえた気がした。

マリン   「…………フレ、イ……さん…………?」

声の主の名を、ぽつりと呟く。
すると、安心したか再び意識が沈んだようで、スコールの足首を掴む手から力が抜ける。

スコール   「…………」

その様子を無言で見下ろすと、入口の方角へ視線を移す。
間も与えず、残骸と塵芥を巻き上げながら滑り込むように飛び出してきたのは、赤い髪の青年。

倒れ伏したマリン、傍らに立つスコール。その光景がフレイの目に入った途端、表情がぽっかりと空になった。
見開いた金眼だけが無表情の中でギラつき、激しい怒り、嫌悪、後悔。それから、恐怖。それらを綯い交ぜに浮かび上がらせた。

フレイ   「………お前……この、野郎ッ!!!!何しやがったァア!!!!!」

拠点内にびりびりと木霊する叫び。同時に、巨大な大剣を振りながらとしては考えられない速度で斬りかかる。
ひらりと跳び、一閃を避けるスコール。しかし、そんな事は関係無いと言う様に、フレイは勢いのまま一直線にその向こうへ駆ける。
その目的は、最初からマリンの元へ強引に向かう事だったからだ。

避けたスコールに目も向けることなく、その手の大剣も放り出し、倒れたマリンの肢体を抱き起こす。

スコール   「ほう、もう来たのか。 もう少し遅いと思ったのだけどね。 やはり彼は、元チームメイトには甘いということかな?」

無防備であるはずのその背を見て、感心したような表情を向けるスコール。
しかしその頭上から、フレイに続き現れた長身が踵を振り下ろす。

エトワール   「ミルクの匂いさせたお子ちゃまってか、ッ!!」
スコール   「おっと……!」

一度抜剣を腰に収め、後ろに跳び退いて回避するスコール。
フレイらとスコールを引き離すように割って入ったエトワールと、真っ直ぐ対峙する形になる。

エトワール   「何だこりゃあ。テメェらの目的はこの女負かすためだったってことか?」
スコール   「やぁ、君はデータが無いな。 何者だい?」
エトワール   「ならず者だよ」

しれっと答えて、姿勢を低くする。
スコールも再び剣を抜き、臨戦態勢の二人がにらみ合う。

スコール   「ただのならず者の攻撃なら、片手間で避けられたのだけどね。 まぁいい、君の質問の答えだが、まさか。 そんなわけはないよ。」
スコール   「私の目的は、これさ。 彼女にはもう、しばらく用は無いから、好きにすると良い。」
エトワール   「……?」

マリンから奪った、紅玉のような紅の石が填められたチョーカーを掲げて見せるスコール。
しかしエトワールにとっては、最近彼女が付け始めたお気に入りのチョーカーであるという認識しかない。
怪訝そうに目を細めて、睨め上げる。

フレイ   「マリン!マリ…、……っ、マリン、」

その間もエトワール達を背にして、抱きかかえたマリンの頬を何度も触り、呼吸を確かめようとするフレイ。
頬がだめなら肩を、肩がだめなら手を。ほんの少しでもその瞼が上がってくれないかと懇願しながら。
抱えたマリンの形を辿るように触れ、半ば過呼吸気味の息の合間に呼びかけ続ける。

マリン   「…………ん、……ぅ……」
マリン   「…………フレ……イ、……さ……」

その瞼がぴくりと動き、微かな声で名を呼んだように聞こえたが、意識が戻ったわけではないらしい。

フレイ   「マリ、ン……」

極微かな声に漸く安堵したのか、体中の息を吐き出すかのように深く、長く息を吐く。
そして、傷ついたマリンの身体を強く抱え込んでから、そっと振動を与えないように床に下ろした。
ゆら、とその場で立ち上がり、スコールの方へ身体を向ければ、その表情は抜け落ちた無表情に変わり、瞳だけが異様に暗く輝いている。

フレイ   「……リンをどうする気だ」
スコール   「怖いね。 そろそろ君もわかってきているんじゃないのかい、フレイ・フェミング?」

低く、ぞっとするような冷たい声。
フレイのその様子にも変わらず、やれやれというように両手を上げ、チョーカーを収めるスコール。

スコール   「私の雇い主の目的に、彼女は絶対に同調しない。 彼女を救うのが目的であるのに関わらずだ。
        つまり、"彼女にとって大切なもの"を犠牲にする必要があるんだよ。」
エトワール   「…………」

何言ってんだこいつ、とでも言いたげな表情。しかし、エトワールが唇を開くことは無かった。
まるで海底の氷柱のような、それでいて膨れ上がる溶岩を思わせるフレイの声音を聞いたからだ。

フレイ   「……リンを生贄に捧げれば、マリンの“器”の均衡が保たれると?」

言葉が一音一音紡がれるほどに、フレイが背負う暗く重たい怒りが増していく。
じっと睨めつけたまま、今にも爆発しそうな殺気を内包したままで。

ただそこに、放り出した大剣すら握らず、立っている。

スコール   「ああ、思い切り噛み砕いて言うとそういうことになるんじゃないかな?
        知っているよ。 君も以前、同じ結論に達しかけたそうじゃないか?」
エトワール   「…………?」

発言の意味が理解できないエトワールは押し黙ったまま。
油断無く視界にスコールを捉えたまま、背後のフレイに注意だけを向ける。

スコール   「ああ、ならず者君。 彼はね、過去にこう言ったそうなんだよ。
        そこに倒れている彼女と、もう一人のとある女性。 どうしてもどちらかを犠牲にしなければならないのなら、後者を切り捨てる、とね」
エトワール   「……アツいもんだ」
フレイ   「…………」

じりじりと高熱の炎を浮かべる瞳は、何も変わらない。
無表情でありながらスコールを射殺さんばかりに睨んだままで、静かに呟いた。

フレイ   「今でもそう思ってる。本当に何の手立てもないなら、そうするつもりだ。俺如きがあれもこれも救えると勘違いするほど自惚れてもいないからな。
       だけどな、それは最後の手段だ。俺たちはリンとも約束をした。それを容易く破る気はない」

抑揚の少ない声と共に、す、と手が差し出される。

フレイ   「リンを返せ。今すぐに」
スコール   「断る、と言ったら、どうなるのかな?」

スコールがそう問うた瞬間、ふっとフレイの姿が消えたように思えた。
何も得物を持っていないからなのか、偶然にも瞬きと動きが重なったのか。
本来スピード型ではないはずの長身は、気付けばスコールの目前に迫り、正面から拳が振りかぶられる。

それは、スコールの笑みがはじめて、完全に消えた瞬間だった。
疾風のようで、鋼よりも重い一撃は、スコールの反応速度を上回っていただろう。
だが戦闘経験からの勘によるものか、咄嗟の回避によって拳はスコールの頭部のすぐ横を抜ける。
同時に、その頬が小さく、赤く切れたのが見えた。

スコール   「……これは、驚いたね。 流石に私も疲れているし、今戦えば、もしかすると負けてしまうかな?」

追撃から逃れるため、後ろに大きく距離をとるスコール。
笑みを取り戻したその頬には、僅かに汗が滲んでいる。

スコール   「元より、君達の歓迎を受けるつもりは無くてね。悪いが、これで失礼させて貰うよ。」

僅かな動きから、退却に移ることが判断できただろう。
それをみすみす逃す二人ではない。

エトワール   「こンの、やろ」
フレイ   「素直に見送ると思うのか?」

瞬時に銃口を向けるエトワール。
同時に、ぞっとするような冷たい声音と共に、抉り取るような乱暴な動きでフレイが掴み掛かる。

メイリーン   『っ!?高エネルギー反応です!!…二人とも止まってくださいっ!!』

二人がスコールに迫るのと、メイリーンの声はほぼ同時。
何処からか豪速で飛来した青色の炎弾が、爆音と共に二人の眼前に着弾した。
先程ウェインが放っていた炎弾より明らかに出力の上回るそれは、直撃を避け後ろに跳んだ二人の視界を一瞬白く染める。

そして、炎と噴煙が晴れた時、スコールの姿は拠点の何処にも存在しなかった。

メイリーン   『……侵入者の反応、消失……今の高出力の炎テクニックも、発射地点の特定は……難しいです、にゃ……』
エトワール   「…………どこもかしこも、ザルすぎんだよセキュリティがよ……」

無意識に息を詰めていた体が、標的の喪失を認識すると共に脱力する。
低く不満げに呟いた横で、ガシャアン、と鈍い音が響いた。

フレイ   「……」

端に転がっていた、長椅子だった塊をフレイが蹴り上げた音だ。
吹き飛ぶそれに目も暮れず、普段通りの温度を取り戻した顔で寝かせていたマリンの元へ踵を返す。
目を閉じた顔を心配げに覗き込み、素早く抱き上げると足早にテレポータへ向かう。

フレイ   「リンにも、マリンにも、時間は残されてなさそうだ。まずは治療を受けさせよう。その間に状況と対策を話し合って、早急に動かなきゃならないだろうな。お前はロミオ達に連絡を頼む」

戦闘の痕でただでさえ無惨な拠点が、更に酷くなった様子をエトワールは白い目で眺める。
その目のままフレイの背を見つめて、深く息を吐いた。

エトワール   「りょーかい。……そーいうやつは根回し得意なやつが転がってんだ。……あんたはしばらく、ついててやんな」

目線だけで返事を返し、言葉も発さずに、フレイの姿は粒子となってテレポータに消えた。
その瞬間、金色の瞳が抱き上げたマリンの顔に落とされているのが、フレイの肩越しにエトワールにも見えただろう。

エトワール   「…………」

一人残されたエトワールは、美しい色の双眸を荒れた床へと落とすと、もう一度深いため息を吐く。
乱暴に頭を掻くと、メイリーンと分担し、まずはロミオに通信を繋げた。


To Be Continued...

  • 最終更新:2017-01-18 23:35:57

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