Nightmare Fiction 2

マリンを拠点に残し、フレイとエトワールの二人は、ソーンシップの隅にある荒れた廃墟を進んでいた。

エトワール   「いかにもな場所にあるもんだな」

足元の瓦礫を、器用に、跳ねるようにして避けながら、双眸を細めるエトワール。
先を案内するように、シャーレベン所有施設からオペレートしている、メイリーンの声が響く。

メイリーン   『目標座標は5km程先、感知できる生体反応がひとつですよぅ。……今まで、問題になっていなかったことの方が不思議なくらいですにゃ』

フレイ   「怪しすぎて、罠かと思えるな。……クソガキかクソ野郎か、どっちかな」
エトワール   「どっちだろーと胸が踊るけどな」

後ろに続いて瓦礫を乗り越えるフレイに、はは、と軽い笑みで返す。
そして、目線を動かさずふと注意だけをフレイに向けて。

エトワール   「調子はマジに戻ってんだろーな」
フレイ   「当たり前だろ、足は引っ張らねえよ。……負けっぱなしじゃ気が済まねえしな。ま、お前がゆっくり狙えるように、精々壁役張らせてもらうさ」

つまらなそうに返すフレイ。
会話が弾むわけでもなく、途切れるわけでもなく、二人は目的座標へ足を進める。

エトワール   「そーかい。ま、約束しちまった手前、五体満足で帰してやっから安心しとけよ。戻りゃーあんたは手厚い看病もしなきゃだろうしな」
フレイ   「は、そりゃ嬉しいこった。あの子を泣かせたいわけじゃないからな…。頼んだぜ」
エトワール   「任せとけ」

短い言葉は、その意味の割に、投げやりな親愛と共に投げ込まれた。

メイリーン   『メイちゃんも、おもちゃにされっぱなしは気に食わないですからねぇ。あせくさーい実戦はお二人に任せますが、精一杯オペレートであの人たちを見返してあげますよぅ』

通信機器越しに、二人の耳に届くメイリーンの言葉は、いつもの調子でありながらも、珍しくむくれたような声音だった。
ふん、と鼻を鳴らすような音まで聞こえる。
言葉通りに、正確な彼女の案内によって、目的座標への距離はみるみる詰まっていく。

二人がさらに足を進めれば、瓦礫だらけの周囲とは明らかに不釣合いな、新しい建物が嫌でも目についた。
飾り気のない工場のように見えるその施設の前に、青い髪の色、コートの色が遠目に確認できた。

その色を見て、口角を上げるエトワール。
足を緩めることなく、近付いていくフレイ。
背負った剣の柄に手を伸ばしながら、知り合いに挨拶する気安さで、その青年に声を上げる。

フレイ   「よう、クソガキ。……今日はお前だけか?」

クソガキ、と呼ばれたウェインは、無表情で瞼を閉じ、腕を組んだまま二人を迎えた。
武器も取り出さないまま、抑揚なく口を開く。

ウェイン   「そうなるな。 あの男のように前置きやゲームなどに興味は無いから、単刀直入に聞かせて貰う。 君達は、何の用で此処に来た?」
フレイ   「事実を知りに来た。あの男が仄めかしたヒントも、お前が伏せたがる詳細も、その施設にある機器……それを調べれば、何かわかるだろう。……その駒、奪わせてもらうぜ」

鳥肌のたつような冷たい金属の摩擦音を鳴らし、ゆっくりと抜いたフレイの大剣が、ウェイン――或いはその背後の施設に向けられる。
続いて、大型の双機銃が重たく稼動する音と共に、にまりと笑ったエトワールの唇の間から、並んだ歯が覗く。

エトワール   「可愛いツラが腫れちまう前にどいた方が良いぜ。こっちも鬱憤溜まってるわお姫様が心配だわでまー危険な男だぜ」

それぞれの得物を向ける二人。
そこでようやく、ウェインは赤い双眸を薄く開き、ゆっくりと戦闘の構えをとり片手に炎を宿らせる。

ウェイン   「悪いが、それはできないな。 通りたいなら力づく、ということだ。 こちらも君達を殺すつもりで行かせてもらう。」
フレイ   「………」

ぐ、と一段と重心を下げ、油断なくウェインの様子を睨むフレイ。
視線を固定したまま、斜め半歩前に立つエトワールに言葉を投げる。

フレイ   「殺す気はないが……反抗期のクソガキだ、少しばかり殴ってやってもいいだろう。半殺しでいくか」
エトワール   「反抗期が半殺し程度で治るかよ。そんなに素直なイイコちゃんなら、だいすきなおねーちゃんに泣く泣くイイヒト送らせたりはしねーさ…………、……7分の5殺しだな」

緊張した空気にそぐわないほど、からりと明るい声音でそう言ってのけた。
途端、青緑の双眸が銃口のように輝く。小気味よい発砲音と共に、フォトン弾が流星のようにウェインへ迫る。

それに対し、片膝をつき、地に掌をつくことでウェインの眼前に青い火柱が上がり、銃弾を飲み込んだ。
続いてその炎の壁を球状に纏めると、エトワールのフォトン弾の繰り返しのように直線状に、二人に一撃ずつ放つ。

それが開幕の合図になった。

ウェイン   「相変わらず、舌の回ることだな」
エトワール   「耳障りが良いだろ?」

笑みを深めながら、身を半回転させて、背中越しに火球をやり過ごすエトワール。
対してフレイは、肩で剣の腹を押し出すように突進し、炎弾の中心を超えると剣を縦に流してそのまま二つに切り裂く。
青い火の粉を左右に散らし、突進の勢いのままウェインに急接近する。

鮮やかに間合いに滑り込みつつ、獰猛に光る金眼を見開いて、大剣を振りかぶるフレイ。
しかしテクニックの使い手だからと言って、間合いに入られただけで終わるウェインではない。

脚力を駆使して後ろに跳び退き、下がるその身を追わせるような形で地から火柱を噴き上げる。
間合いに飛び込んだフレイの身が、そのままの勢いで火柱に包まれた。

それを見届ける間も無く、ウェインは逆方向に炎のカーテンを展開する。

エトワール   「おっと。読まれてたか」

風のような速さで背後に回りこんだエトワールからの、追撃の銃弾。
死角から放たれたはずのそれを、青い炎が飲み込んでいく。

ウェイン   「君はその口を抑えれば、もう少し人に好かれるんじゃないのか?」
エトワール   「今更、誰かに好かれようなんざぁ思っちゃいねぇさ。そこは俺とテメェは似てんのかもしれねぇなあ」

似ている、の言葉にウェインの表情が歪むのが、戦闘中でも見てとれただろう。

エトワール   「そら、憎いツラばっか気にかけてっと、怖ぇニイサンに潰されてもっとチビになるぜ!」

燃え上がる火柱が裂ける。
エトワールの言葉通り、火柱に包まれたはずのフレイがその中から飛び出し、さらに速度を上げてウェインに迫る。
ぎろりと睨む目はどちらかといえば無感情な程に冷静だが、同時に獣じみた光は興奮を示すようでもある。

再び斜め上段から、巨大な大剣で叩き潰すように斬り下ろす。

ウェイン   「ちっ……」

火の粉を散らし、猛進してくるフレイの姿を流し目で確認して、小さく舌打ちした。
不自然な体制からなんとか身を翻し、剣を避け後方に飛び、着地。

反撃に転じる間があったように見えたが、炎を放つことはせず鋭い赤の眼でフレイを見据えた。

ウェイン   「流石に、前回の君とは違うようだな。 僕を早急に片付け、帰還しようという所か?」

再び飛び出そうと脚を撓めていたフレイだが、ゆっくりと緩める。
巨大な剣を構えたままの姿勢で、静かに応えた。

フレイ   「お前が言っていたことが、ただの脅しではなさそうだとわかった。あれが本当だとすれば、そしてお前のなりふり構わなさから考えても、きっと猶予はそう長くないはずだ」
ウェイン   「なりふり構わないのは互いにだろう。 ならば僕を倒して目的を遂げれば良い。 君にできればな」

そのウェインの言葉で、ここにきて初めてフレイが不快そうに表情を歪める。
弾みをつけるように、剣をぐぐ、と後ろに引き絞る。

エトワール   「言われてんぞ赤毛」
フレイ   「………ほんと、イラつくな、お前ら……なりふり構わない状況にさせてんのはどこのどいつだ、ってんだよ!」

溜めていたものを爆発させるように、言葉尻を激しく弾けさせる。
それに合わせて、身体もまるで弾丸のように、弾かれ駆け出した。

ウェインが放つ牽制の火炎も悉く斬り捨て、勢いは緩むことなくウェインに迫る。

フレイ   「本当にお前が姉のこと思ってやってるって言うんならなあ!それが正しいやり方だと本気で思ってるなら!堂々と正面切って説得してみろ、つーんだよッ!!」
ウェイン   「……説明した所で、君は理解しない。 君がしたとしても、彼女は絶対にしない。 最初から君たちの理解なんて求めていないんだよ、あの人は。 だから、戦うしかない」

激昂の表情と、吐き捨てるような苦い表情。
二つが交差し、フレイの大剣をやはり間一髪でウェインが避ける。

しかし、ただでさえ二対一の戦力差。
すかさず追撃に入るエトワールに対し反撃に転じる隙もなく、勝敗は見えている――――
第三者が見れば、そう感じただろう。


――――――――――――――――――


だが、戦闘時間としてはそれなりの時が過ぎた今。
流れ弾や剣が辺りをより荒れ果てさせながらも、フレイ、エトワール、そしてウェインは戦闘態勢を継続し、立ち続けていた。

エトワール   「……っ、ふー……」

フレイ、エトワールの優位は目に見えて揺るがない。
ほぼ無傷の二人に対し、ウェインは片腕を銃弾が掠め、軽傷とは言え負傷している。
だが、回避に専念し、反撃してこない――できないと言うべきかもしれないが――ウェインに対し、あと一歩押し切ることができずにいた。

エトワールが重量感を纏う双機銃を肩に担ぎ上げ、大きく息を吐く。
頬から伝う汗を拭おうともせず、訝しげにウェインを見据えた。

エトワール   「……ちょこまかと、よーく避けんなぁ……」
ウェイン   「……そう言って、諦めて帰るわけでもないだろう、君達は。」
エトワール   「おう。しぶてぇ、女々しい野郎なもんでよ」

応えるウェインの中性的な顔には、エトワール以上の汗が滲み、息も切れている。
長めの髪をかき上げ、一度はっきりと息を吐き出すウェインを、苦々しくフレイが睨む。

少なくとも体力で言えば、ウェインはフレイ、エトワールのどちらにも及ばない。
であれば、不利になっていくばかりの長期戦よりも、無理を押してでも早々にどちらかを倒し、一対一に持ち込むべきことは明白だった。
にも関わらず受身に徹する真意が絞り切れず、フレイは苛立ちを露にする。

フレイ   「……ちんたらやってる場合じゃねえってのに……そっちだって、防戦してばっかりじゃ体力で俺に勝てないのはわかってるはずだ。……時間稼ぎをする理由があるってことか?」
ウェイン   「………………」

一度瞼を閉じると、汗に濡れ邪魔な前髪をもう一度、乱暴にかき上げる。
薄く瞳を開くと同時に、戦闘態勢を解くように両手を下げた。

ウェイン   「……そうだな、流石にこれ以上は限界だ。 持久戦で、君達相手に僕の勝ちの目などない。 まぁ、ここまでやれば十分だろう。」
ウェイン   「君の推測通り、僕の役目は時間稼ぎだよ。 僕の後ろにあるこれも同じだ。」

嫌な笑顔を貼り付けていたエトワールが、表情を崩さないまま、唇の端を一瞬だけぴくりと動かす。

エトワール   「……此処ごとブラフだって言いてぇのか?」
ウェイン   「その表現だと正確ではないな、破壊されて支障が出ないと言えば嘘になる。 だが、囮ではあるよ。」

ウェイン   「こちらの――― あの男の本命は、君達のチーム拠点だ。 誰が残されているのか、当然君達は知っているだろう?」
エトワール   「…………」

エトワールが剣呑に瞳を細める。
ウェインの言葉が真実なら、猶予は一刻も残されてはいない。

それとほぼ同時に、ガン、という鈍い音と共に、フレイの傍に転がっていた瓦礫が粉々に砕けた。

フレイ   「……っ、くそっ……!!」

苛立ちのままに剣を振り下ろしたフレイ。
間髪入れず、それまで戦っていたウェインに目も当てずに、踵を返して全速力で駆け出した。

その我武者羅な姿に、目を見張って呼び止めようとしたエトワールだが、その背にウェインの声がかかる。

ウェイン   「……殺すべき相手との戦闘で時間稼ぎに徹する屈辱は、相当なものだな。 君も何か思うことがあるなら、次はそれを僕にぶつけると良い。」
ウェイン   「僕も、そうすることにするよ。」

駆け出したフレイを追う様子も無く、もはや戦闘の意志はないようだった。
そんなウェインに星色の眼差しを向け、はは、と軽い笑い声を漏らす。

エトワール   「それじゃ、なーんもねぇ、ってことにしといてやるよ。テメェに向けてやる殺気だの怒りだのはどっかにいっちまったし……それは、俺じゃねぇ優しい誰かが向けるもんだ」
ウェイン   「……相変わらず、この世の誰よりも気に食わない男だ」

ほぼ無表情を保っていたウェインが、露骨に、はっきりと眉間に皺を寄せ、表情を歪めた。

エトワール   「ありがとよ。じゃ、腹冷やさねぇようにな。俺達がやる前に7分の5死なれたらくそほど笑えるぜ」

にま、と嫌な笑みを浮かべたのは一瞬。
フレイを追ってテレポーターへと走り出す体捌きは、淀みなく、鋭い。

エトワール   「落ち着いてけよ赤毛!まず猫娘に通信取って…」

脇目も振らずに全力で駆けるフレイと、それに続くエトワール。
転送を駆使しても、拠点まではそれなりの時間を要する。

メイリーン   『聞こえてます!ああもう、思い詰めて突っ走るところは本当変わらないですねぇ!最短でテレポーターを送ってるところですよぅ!座標はっ――――』



  • 最終更新:2017-01-18 23:29:06

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