Nightmare Fiction 1

正午前、シャーレベンチーム拠点。
大柄の男性二人―― フレイとエトワールの前で、マリンがこれから実行する作成内容の確認をしていた。

マリン   「……作戦内容の確認は以上になります。 二人とも、準備などは問題ありませんか? 質問があれば、今の内に。」
エトワール   「質問も何も、行って殴ってくりゃあ良いんだろ?」

悠々とあくびをして見せるエトワール。
どうしても外せない仕事が入ったロミオ(と、その補佐のルリ)の代理として、彼がこの場に来ている。

前回マリン達が持ち帰ったデータを解析した結果、スコールが使用したオブジェ型の機器は予想通り、行き場を失くしたフォトンを実体化させ、使役可能であることが判明した。
それを行う理由については未だ不明だが、少なくとも放置しておけるものではない。
同じくデータに示されていた、この機器を生産している大本の工場に赴き、これを制圧―――或いは、破壊。
それが、今回の任務である。

この場にいる三名に加え、メイリーンがオペレーターとして、先に別施設へ移っていた。

エトワール   「そういや、こっちはこないだ随分男前になって帰ってきたとか聞いた気がすんだが」
フレイ   「ああ……少ししくじってな。だがもう治った、問題ねえよ。次は勝つさ」

エトワールがふと視線を移した先は、大剣を背負うフレイ。
その金の眼が一瞬ぎらりと燃えるが、涼しい声音で返して。マリンに視線を戻すと、金の瞳は心配げに柔らかくなる。

フレイ   「こっちは大丈夫だ。が……マリン、君こそ、平気か?本当に何も不調はないのか…?」

ウェインによって齎された、詳細は不明だがマリンの身体が不安定である、という情報。
フレイからすれば、これからの任務よりそちらに懸念を向けているようだった。

マリン   「……もう、エトワール君…… フレイさんも。 説明した通り、目的は制圧です。 邪魔が入らなければそれが何よりなのですが……」
マリン   「私はこの通り、何も問題ありません。 今度は、フレイさんを前回のような目に合わせることもありません。 エトワール君、あなたももっと気を引き締めてください。 あくまで最重要は自分の身…… 少しでも危険を感じたら退く。 わかっていますよね?」

念を押すように言うと、エトワールが肩を竦める。

エトワール   「これでも緊張してんだぜ。犬のあくびの仕組みってな。まあ、危険だなんだと言われたとこで、どこぞの大型有翼ダーカーに比べちゃ可愛いもんだ。きっとな」
フレイ   「そりゃ、あの坊ちゃんに比べれば、ヒトの方が可愛いもんだろうよ。……マリン、言うまでもないと思うが、それは君も、だからな?俺たちを守ろうとして、自分が……なんてのは、やめてくれよ。心配してるのは、こっちも同じなんだ。俺たちも気を付ける。君も、気を付けてくれ」

マリンを見下ろして、フレイはしみじみと低い声で言う。
その形はお互いの念の押し合いで、マリンは眉を下げて、視線を横に逸らし答える。

マリン   「……それは、理解しているつもりです。 でも、現状私の身体はいつもと何の変わりもありませんし…… この状況でただ黙って相手の次の手を待っていられるほど、私は悠長ではないです……から。」
マリン   「……さぁ、メイリーンさんを待たせています。 二人とも、問題が無ければ目的地に急ぎましょう。」
フレイ   「………」

気がかりそうにじっとその表情を見つめていたフレイだったが、やがて顎を引くようにして頷く。

フレイ   「……ああ…。……さっさと片づけて、戻ってこよう」
エトワール   「了解」

それに続き、エトワールも身体を慣らすようにぐるりと首を回すと、小気味よくポキリと音が鳴った。

エトワール   「茶が冷めねぇうちに、ってとこか」
マリン   「はい。 今から急げば、13時に、……は…………?」

二人の前に立っていたマリンが、先頭に立ち歩き出そうと身を翻した瞬間、だった。

何か前触れがあったわけでもなく、マリンの身体がふらりと、ゆっくりと傾いた。
それは限りなく唐突で、現にエトワールも一瞬反応が遅れるほどで。 音も無く、後ろに倒れ込む。

それをフレイが腕を伸ばして抱き留めたのは、ほぼ脊髄反射と言えた。

フレイ   「――――……ッ、マリン…!?」

詰まった声が吐き出されるように、歪んだ大声が響いたのはマリンを抱き留めてからだった。
大慌てで覗き込んだマリンは、何故目の前にフレイの顔があるのか理解していない、という顔で瞬きする。

マリン   「…………え、……あ…………」

間の抜けた声を上げ、呆然とフレイを見上げて、ようやく何が起こったかを知り気まずく視線を逸らした。

マリン   「…………ぁ…………… ………ご、ごめんなさい……。 ……少し、えぇと…… ……足を、滑らせてしまったようです……」

その呟きを聞いた途端、フレイは表情を厳しく歪め、抱き留める手にも力が入る。
隣では、エトワールが素早く拠点のテレポータの転送先を合わせ、マリンのルームまで繋げていた。

フレイ   「……誤魔化さないで正直に言うんだ。本当に、足を滑らせただけなのか?………今の倒れ方、おかしいだろう。…………」
フレイ   「……マリン、帰るんだ。メイリーンでも、クレハやアサヒでもいい、誰かと一緒に、拠点にいるんだ。……出撃は俺とこいつで行く」

真摯にマリンの顔を見下ろし、念を押すフレイ。
やがてまともに視線を合わせていられなくなり、マリンは眉を下げ視線を斜めに逸らしてしまう。

マリン   「フレイさん……。 でも、私は…… 私は、あなたにもう前回のようなことになってほしくなくて…………」
フレイ   「俺は死なない。絶対に、帰ってくるって約束しただろう?……君がそんな状態である方が、気が気じゃない……とてもじゃないが、行かせられない。絶対にダメだ。今すぐ、帰るんだ」

強い語調ではないが、その声には有無を言わせぬものが篭っていた。
肩を抱いていた手をマリンの手に移すと、その指をぎゅっと握る。もう片手を二の腕辺りに添え、付き従うようにテレポータへ促す。

エトワール   「帰れ帰れ」

少し離れた位置で、エトワールが揶揄するような調子で声を上げ、フレイに同調する。

エトワール   「今の千鳥足じゃ、逆にリスクたけぇのは分かってんだろ。しょうがねぇからそこの赤毛は面倒みてやっから」
マリン   「フレ……イ、さん…… エトワール君……」

目を伏せぽつりと二人の名を口にしてから、もう一度その顔を見上げる。
二人を順に見比べてから、小さく息を吐いた。

マリン   「……わかり、ました。 でも、此処で待機させてください。せめて、あなた達の帰りを待っていたい…… 今はもう、本当に身体は痛みや不調は無いんです。 後で誰か、チームの方を呼んで、来て貰いますから……」
マリン   「エトワール君。……フレイさんをお願いします。 あなたも、絶対に無事で戻ってください。」

エトワールの目元が、ほんの僅か頷くように和む。
フレイは苦い顔でマリンを見てから、握ったその手を持ち上げ、祈るように、あるいは感謝するように俯けた額に寄せた。

フレイ   「……お互い、心配しているだけなのにな。…悪い…。俺が不安なのと同じだって、わかってる。……だけど、譲ってやれない。ごめんな」
フレイ   「絶対に……必ず、戻ってくるから。……安静にしていてくれ。リーダーがいれば、すぐに診てもらってもいい」

そこまで呟くとマリンからゆっくりと離れ、エトワールに促すような視線を送る。

フレイ   「それじゃ、行ってくるから」
エトワール   「腹あっためとけよー」

片手を掲げて、順にテレポータに粒子となり消えていく二人を見送り、少しだけ寂しさを帯びた笑みで。

マリン   「……はい。 無事で帰ってきてください、二人とも。」





フレイとエトワールが任務に赴き、マリン一人となったチーム拠点に静寂が訪れる。
チームメンバーを呼ぶ前に、マリンは両掌を複雑な表情で見下ろした。

マリン   「(…………。 先ほどの…… 一瞬だけ身体が力を失うような、感覚は……)」

こちらを見下ろしてくる、フレイの形相。そして、伝えられた自らの身体についての情報を思い出す。

そうしていると、マリン以外に誰もいないはずの拠点に声が響いた。


「"何故、今になって?" …………そんな所かな?」


ゆっくりと背後に振り向く。
金色の髪、琥珀色の瞳。自らのそれと同じ色を持つ、黒いコートの男。

マリン   「…………。 ……どうやって、此処に?」
スコール   「何、君の身に症状が表れるのはそろそろだと、情報を貰っていたからね。それを狙って来たまでだよ」

こつ、こつ、と。 薄い笑みを浮かべつつ、男は悠々と足を近づけてくる。
それに対し、マリンの顔から感情を読み取るのは難しい。口を結んだまま、無機質な琥珀がじっとスコールを捉えていた。

スコール   「大して驚いてはいない様子だね。とすると、君が直接狙われる可能性を考えた上で、あえて一人残ったのかな? 心配されているというのに、罪深いことだ」
マリン   「……あなたは」

悠々と話すスコールの言葉を意に介さず、低く、冷たい声で口を開く。

マリン   「スコール・ホワイト。 ……その人で、相違ありませんか?」
スコール   「ああ、合っているよ。 合っていれば、どうなるのかな?」

答えを聞くと同時に、一度瞼を閉じる。
そして次に開いた時、マリンの"琥珀"は剣の如き鋭さでスコールを射抜いた。

マリン   「フレイさんを…… 私の仲間を傷つけた貴方を、許すことはできません。
       何よりも先に、その身で代償を贖って頂きます」

二振りの白い飛翔剣を、その手で抜く。彼女が全力で闘うという意志を、その剣は示している。
開かれた瞳孔は、真っ直ぐスコールに向けられ、その琥珀の瞳を映していた。

スコール   「目的も話していないというのに、血の気が多いね。 まぁ、わかりやすい事は嫌いではないけど、ね」

ふ、と笑い、スコールも抜剣を手にする。
一瞬の静寂の後、二人の姿がぶれて。


即座に詰められた距離で、剣と剣がぶつかり合う重い音が、戦闘の開幕を告げた。



  • 最終更新:2017-01-18 23:26:38

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