Inevitable StruggleA 1

「敵拠点の位置が絞り込めました。
場所はリュケイオン北部、建設途中で破棄され放置されていた大型研究施設です。
問題はこの拠点―――― 彼女らが組み込んだ防衛システムにあります。目標のレーダーマップを見てください。」

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「進入経路は正門を通るルートのみですが、此処には強固なフォトン障壁を確認しています。
更に、例のフォトン体を生み出す特殊装置も存在。しかも接続されている施設内の機構から、半無尽蔵に生産する事が可能なようです。
…その気になれば、これを兵としてリュケイオンに攻め込む事もできるでしょう。放ってはおけません。」

「これらを無力化する手段は一つ。施設の両横に設置されている、塔のような建設物を破壊する事です。
防衛機構の驚異的な出力は、全てこの塔から供給されるフォトンによって賄われています。
……しかし、当然あちらもその防衛に戦力を割いてくるでしょう。 全員で一つ一つ潰して行くのでは、途中で対応される可能性が高いです。
こちらの戦力は五人。本来戦力の分散は好ましくありませんが…… 内二人、つまり各塔一人ずつを塔の破壊に当て、残りの三人で本陣に切り込む――――
……この作戦しかありません。」

「皆さん、くれぐれも自らの身を最優先にしてください。
そして……必ず私達の艦に帰りましょう。」

五人の話し合いによって決定した、リュケイオンにおける作戦。
西の塔を担当するのはロミオ。東の塔はフレイ。
そして、突破口の開いた本陣へ突入するのはクロエ、マリン、ルリ。

リンとマリンの運命を決する、最終戦の幕が上がろうとしていた。



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陽も沈みかけた夕刻、防衛システムのエネルギーを司る東のタワー。
塔を守っていた数体のフォトン体を斬り伏せたロミオが内部へ進入すると、眼前には上階へ続く螺旋階段が伸びていた。

ロミオ   「……結構な高さだな。デスクワークで鈍った身体には、しんどそうだ」

この戦いの為にと誂えた白い装束が、施設内の薄明りを反射する。
手にした抜き身の刀もまた、薄暗闇の中で鈍く光を放っていた。

彼がこの戦いに感じた強い戸惑い。それは今も消えてはいない。
しかし、自分は「皆で一緒に帰る」、そう決めた。そう約束した。ルリと、マリンと、フレイと……
……そして、これから相対しようとしているセラフィナや、ウェイン―――レンとも。

先程のフォトン体のみに警備を任せるはずがない。警戒しつつ、ロミオは長い長い螺旋階段を駆け上がる。
出来ることならば、何もなければいい。もし「誰か」が待っていても、争う事無く判り合いたい。そんな小さな希望を、胸に秘めて。


ひたすら階段を駆け上がり、塔の中程までは上がっただろうか。
視線を上げれば、その進行方向、階段の上に強弓型や長銃型の武装をしたフォトン体が5体程、並んで待ち構えている。
構えた武器の先は当然侵入者であるロミオだ。フォトンの矢や弾丸が一斉に放たれる。

ロミオ   「……まぁ、待ってるよな……!」

階段を駆け飛び、飛び道具を躱す。背後に着弾したフォトンが炸裂するがそれには構わずに身を翻して。
棚引くコートを抑えるように払い、現れたロミオの両手には拳銃が握られている。

装束と共に準備した急拵えのツインマシンガンだ。
でありながら、それをさも以前から使い慣れているかの如く取り回し。そのままフォトン体へ仕返しとばかりに銃弾を浴びせていく。
1体、また1体とフォトン体が銃弾に貫かれ、塵と消える。

ロミオ   「……こっちの腕も、まだまだ……捨てたもんじゃない」

成す術なく霧散するフォトン体を横目で見つつ、残弾を確認。
腰のガンホルダーへ銃を戻すと再び階段を昇り始める。
この先に待っているのが何なのか、誰なのか、予感のようなものを携えて。

延々と続く螺旋階段に、ついに終わりが見えた。
最上階手前、中央の巨大な柱を除けばほとんど何も置かれていない、殺風景な部屋。
階段から上がり足を踏み入れると、その奥に人影が見えた。 長めに伸びた青い髪、そして赤い瞳。
細身の青年が、壁に寄りかかるようにして立っている。

ウェイン  「…………。」
ロミオ   「……だよな」

そのの姿を確認すると、短く呟くロミオ。ゆっくり息を整えつつ、そちらへ歩み寄ろうとする。

ロミオ   「薄々……居るんじゃないかって。思ってたよ、レン」
ウェイン  「ロミオ・ヴェネダレッタ。 君の目的はこの上だ。 これ以上進むと言うなら――――」

横目で指す先は、中央の柱―――― 正確には、最上階行きのエレベーター。
感情を殺した虚ろな表情で、ロミオに対してその片手を翳す。

ウェイン  「武力を持って君を阻む事になる。 ……まぁ、君としてはどうあっても進まなければならない事はわかっている。 どの道剣を交えるなら無意味だが…… 何か、言いたい事があるというなら聞こう。」
ロミオ   「………レン」

相反するような、悩ましく険しい表情のロミオ。それでも何とか、口元に笑みを浮かべて言う。

ロミオ   「……もう止めないか、レン」

ロミオ   「皆で一緒に帰ろう。今ならまだ、取り返しのつかないことにはなってない。マリンさんの事だって、皆で協力すれば……だから!」
ウェイン  「…………」

顎を引き、瞼を閉じるウェイン。 肯定も否定もせずにしばらく沈黙が続き、ようやく瞼を開いたかと思えば―――
その赤き瞳は先ほどまでの虚ろなものではなく、静かな怒りの色を湛えていた。

ウェイン  「呆れて物も言えない、とはこの事だ。」
ウェイン  「君達の目的は理解している。君も僕達の行おうとしている事は既に知った筈だ。 互いが互いの選んだ道を知り、言葉も尽くした。 だというのにこの期に及んで、きっと解決するから帰ろう、だと?」
ウェイン  「何もかもに対する侮辱だ、“木っ端”! 今ならまだ引き返せる? その程度の覚悟で僕は此処に立っていない。それ程、人の命とは重いんだ!!」

その激昂に息を呑む。
しかし、ロミオとて覚悟も無しに、故郷であり因縁の地でもあるリュケイオンへ戻ってきたわけではない。

ロミオ   「……そうだよな……」

小さく呟き、改めて顔を上げたロミオの鈍色の瞳が真っ直ぐウェインを見つめる。

ロミオ   「……そればっかり考えてたよ。話せば判り合えるんじゃないかって。そうなれば良いな、って」

ぽつぽつと呟きながら、脚に括ったナイフを一本抜く。それを持った左手で、視線を隠す様に顔を覆う。

ロミオ   「……でも、心の何処かでは、こうなってしまうって……」
ロミオ   「……そうだよな、レン……甘かったよな。お前の決意を甘く見ていた」

ロミオ   「……ごめんな」

ナイフの奥から再び現れた目は、鋭さを増してウェインを射抜く。
重ねられた刃が、きりきりと音を立てる。鋭い視線と共に、それはゆっくりとウェインに向けられた。

ロミオ   「やるからには、僕も退けないから」

相対するウェインも、翳した手で鋭く空を切ると、その手が青い炎を抱く。
もう片方の手でタリスのデバイスを掴み、戦闘態勢に入った。

ウェイン  「謝罪など不要だ。 優しさだけで僕は倒せないし、誰かを救う事もできない。 来い、ロミオ・ヴェネダレッタ!」
ロミオ   「………レンッ!!」

先程までの戸惑いをかき消すような獰猛な表情。
床を蹴り、ロミオはウェインへ飛び掛かる。抜剣とナイフが、鋭く空を切りウェインを襲う。

ウェイン  「きっと、恐らく。具体的な解決策も無しに進んだ先で、本当に人の命が救えると思っているのか!」

ミラージュエスケープを利用した、真横への回避。
ウェインを追うロミオの獰猛な眼と視線が交わると同時に、先程までウェインが立っていた場所の真上に投げ設置したデバイスから、雨のような炎弾が降り注いだ。

ナイフを回し逆手に持ち帰ると、炎弾をかき消す様に振るっていくロミオ。
一つ、二つ。いくつか叩き落した所で、炎に炙られ赤熱化した刃が柄にまでその熱を伝えてくる。
掌の灼熱感にナイフを取り落とした瞬間、残る炎弾が装束を焦がし、皮膚を焼く。

ロミオ   「ぐう、っ……そ、れ、でも!」

焼け焦げ、引火したコートの炎を払うように地を転がる。
距離を取り姿勢を持ち直すと、拳銃で空中のデバイスを撃ち抜き、破壊。
砕け散り残骸が降り注ぐ下で、平然と立つウェインに銃口を向ける。

ロミオ   「マリンさんを救う、その方法があるとして!正しくないと思ったから、お前は僕らに伝えてくれなかったんだろう!?」
ロミオ   「そんなやり方で、お前は納得するのか!?マリンさんは喜ぶのかよ!!」
ウェイン  「違う! タイムリミットがいつか、明日か一時間後かもわからない中で、君達は他に手段を掲示する事ができていない。 であれば、今たった一つ確実に存在し、人の命を救う事が可能な手段こそが“正義”だ!!」
ウェイン  「正しさとは何より無慈悲で不変で、全てのものに等しく振り下ろされる鉄槌だ!! ならば一人を切り捨てて一人を救う道、何も切り捨てずに何も救わない道、どちらが正しいかなど語るまでもない!」
ロミオ   「正義だと……そんな正義、ッ!」

銃口をなおもウェインに向いたまま。だが、一向にその引き金が引かれる事は無い。
グリップを握る手が、小刻みに震えていた。

ロミオ   「最後まで、何故一緒に戦おうとしないんだ!正義って、諦める事かよ!!」
ロミオ   「僕は、僕達は……彼女と、彼女たちと、一緒に戦う!勝ってみせる!!」
ウェイン  「本当に、君にその覚悟があるのか?」

一向に引き金を引かないロミオに構う事なく、轟音と共にウェインの背後で炎が広がる。
十、二十……それ以上。 無数の青い炎が、チャージを終えロミオ一点に狙いを定めた。

ウェイン  「この地リュケイオン、ディヴェローナから逃げた君が、未だ決着をつけられていない君が本当にそれを成せるのか? 一度はダーカーと化し、牙を剥きながらも、あろう事か君はイヲンスの下につき何も清算できていない!」
ウェイン  「そんな男が、伴侶の傍にいるだけで精一杯の君が、他の誰かを救えると言うならやって見せろッ!」

途端、背後で燃える無数の炎が、全てロミオに殺到した。
辺りは火の海となり、ロミオの視界が全て青に塗り潰される。
業火の如き青炎の熱で、拳銃内の弾丸が炸裂した。銃は寸での所で手放したものの、その隙に自らも為す術なく炎に包まれていく。

ロミオ   「う、あぁ、あああ……!!」

炎の牢獄の中で苦しげにもがく影。僅かに聞こえる苦鳴も、徐々に小さくなる。

ウェイン  「……所詮、君はその程度だった、という事だ。 ……かつての同僚としてせめてもの誼だ、すぐ終わらせよう。」

煌々と燃える青に照らされたウェインの表情が、一瞬、ほんの一瞬だけ痛ましく歪んだ気がした。
しかし、それもすぐ虚ろな無表情に戻る。 もがくロミオに人差し指を向けると、とどめの炎弾が静かに放たれた。


蒼炎の牢獄に焼かれ、もがくロミオに成す術は無いだろう―――― 正確には、“アークスとしての彼”には。



  • 最終更新:2017-08-20 22:25:51

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