Fateful ConfrontationB 2

木上のフレイが言うが早いか、スコールの頭上を飛び越えるようにして、枝と枝を素早く飛び移る。
足場を変える間にも激しい掃射が浴びせられ、マズルフラッシュがスコールの頭上を明滅し、暗闇を弾けさせた。

スコール   「ああ、それは無いだろう。 安心すると良い。」

再び地を蹴り、激しい銃弾の雨を掻い潜る。そして、握っていた抜剣を一度腰に収めると、代わりに手にするのは特殊なデザインの強弓。
それをフレイとは全く別方向の上空に放り投げると、強弓は無数の光球と化して散らばり、消えた。

スコール   「君と違って、私はこの戦闘そのものを楽しんでいるからね。」
フレイ   「……?」

意図の読めないスコールの行動。訝しみながら光球の行方を目で探るが、見当たらない。
仕方なく、全方位の警戒を怠らないまま、次の攻撃を組み始める。

木々を飛び移りながら掃射でスコールの動きを制限しつつ、少しずつ枝の高さを上げていく。
数メートルの高さを確保したところで、唐突なまでのタイミングで強く枝を蹴り、重力と動力の両方を乗せて、スコールめがけて真っ逆さまに降下。

フレイ   「……はッッ!!!」

身動きを封じるため彼の周囲に弾丸をばら撒きながら、衝突する直前でぐるりと前転し、全ての勢いを乗せた踵を頭めがけて振り下ろす。

スコール   「…………」

僅か顔を上げたスコールが、不気味に嗤うのがフレイには見えただろう。
足が振り下ろされる瞬間、スコールの斜め上方、フレイのほぼ真横に、先程消えた筈の光球が出現。

スコールが片手で弓を引くような動作をとると同時に、光球から光の矢が放たれた。

フレイ   「ッ!!?」

スコールを睨んでいた瞳がすぐ隣に現れた警戒対象を視認するが、勢いを乗せた脚は自身の膂力をもってしても引き戻せない。

フレイ   「ぐあッ…!……ッ!!」

振り下ろす軌道を狙い澄まして撃ち出された光矢を避けられず、重い音を立てて筋肉の詰まった膝下を貫かれる。
踵落としの勢いは僅かに殺され、横にブレてしまう。苦鳴を漏らしながら、肩だけでも蹴り砕こうと、そのまま脚を振り下ろす。

スコール   「人形にしておくには、勿体無い意志を持っているようだね」

そのまま当たれば、幾らか勢いを殺しているとは言えただでは済まない。
コートを翻し、無理な体勢から強く身を捻ると、僅かにフレイの踵が背を掠める。
コートの背が微かに裂け、そこから血が覗くのが見えた。

しかし、掠めただけで身を裂く程の威力。放つ側も無傷では通らない。
地に激しく叩き付けられた踵が、地面の土を派手に吹き飛ばすが、その衝撃は負傷した彼の脚そのものにも襲い掛かる。
その着地の隙を見逃すスコールでは無い。すかさず腰の抜剣を振り抜き、一閃。

フレイ   「ぐ、ウッ……!!…ちっ…!」

傷口から血を散らし、激しく表情を歪めながらも、視線は怯ませることなくスコールの動きを見続けていた。
飛び退って避けるには、刃が速すぎる。止むを得ず双機銃を組み、右腕と合わせて身体の横に構え、盾代わりに剣を受ける。

だが小さな双機銃では、鋭く煌く刃の盾としては心許無い。びりりと痺れる手を庇う暇も無く、スコールの鋭い回し蹴りが追撃として襲い来る。
痛む手を無理矢理に下げ、追撃の蹴りにも即席の盾を翳す。
衝撃を少し殺すことには成功したが、弾丸のような蹴りを防ぎきるには程遠い。
ほぼまともに入ったと呼べる蹴りが、フレイの身体を大きく吹き飛ばし、数メートル先の木に叩き付けた。

フレイ   「……っが、はッ!……ゲホッ……!!」

ぎしり、と叩き付けられた木が軋むのを背で感じる。

フレイ   「……ぐ、………とんだ、…は、奇襲だな、オイ」

光矢に貫かれた脚を見る。そこには傷口があるだけで、出血を抑えてくれる物質としての矢は残っていない。
長時間放置しておくには危険だ、とだけ判断を終えると、燃えるような痛みを“いつも通り”殺すため、歯を食い縛りながら立ち上がる。
傷ついた筋肉が動かされ、またどろりと血が流れ出し、ボトムの黒を濃くさせた。

スコール   「見上げたものだ。 まだ楽しませて貰えるのだろうね?」

見えない弓を構えるかのような動作。
すると、スコールの背やフレイの前方に、幾つもの光球が現れる。

そしてその手を引くと同時に、光球は次々と光の矢となってフレイに降り注いだ。
無数の矢の一つ一つが、当たり所によっては致命傷となるだろう。

フレイ   「ふ、っ」

短く、鋭く息を吐くと、両手の銃を素早く巡らせる。
マズルフラッシュが等間隔に瞬き、雨霰と降り来る光を正確に銃弾で引き裂いていく。それはまるで、先程スコールが行った事の繰り返し。
しかし――――目に見えて、その正確性は劣る。処理速度もだ。致命傷に至る矢を優先的に散らせているものの、一般的には重傷と言ってもよい傷は、見る間に増えていく。

腕を、肩を。脚を、腹部を。針山のように身体中を貫かれながら、それでも彼は歯を食い縛り、立ち続ける。
膝を崩すことなく――――そして矢の雨が止んでも、あちらこちらに裂け傷、貫通傷を残したまま、ふらつくことなく立っている。

フレイ   「ふッ、…ふーー…ッ………」

その姿はさながら手負いの獣。
荒い息を吐きつつも、痛みで視界が霞んでいる様子はない。じろりと睨めつける金の瞳は、覇気を失わず、苦痛に歪まず、攻撃的に笑っている。

フレイ   「……は、ッ。これで、終わりかよ?」
スコール   「ほう……」

一層笑みを深くするスコール。傷だらけのその身を探るように見据えると、片手を上げて光球を消滅させる。
そして一瞬の間の後、瞬きにも満たない刹那でフレイの眼前まで接近し、体重を乗せた蹴りを放つ。

手負いのフレイが避けられるでもなく、まともに受けたその身がくの字に折れ曲がった。
受身だけを取り、すぐ背後の木の幹に激しい音と共に叩き付けられる。ばきり、と骨の折れる音が聞こえた。

フレイ   「………はっ、は……っ、げほっ」

肺から空気を押し出されて咳を零しながら、それでも血の垂れる唇の端を引き上げたまま。
ゆっくりと迫るスコールの琥珀の眼を、じっと睨み続けている。

フレイ   「……生憎、痛み、には。強くて、なァ」

穴だらけの左腕を、そうとは思えない速度で持ち上げると、即座にトリガーを引く。
至近距離から胸を狙った射撃。読んでいなければ、回避は不可能に近い。

が、銃を構えるが早いか、二人の間に現れた光球が、光矢となって下から弾丸を貫いた。
噴煙が舞い、その向こうから覗く無傷のスコールの表情は、やはり薄い笑みを浮かべている。

スコール   「あれを受けて、まだそれだけ動くことができるとはね。 予測の上で対処を仕込んだとは言え、やはり大したものだよ」

すかさず、フレイの横の空間に現れた光球が、矢となりその左手の双機銃を貫く。
その勢いで手が弾け飛んだ機銃が、からん、と乾いた音を立てて地に転がる。
続け様にスコールが抜いた抜剣が、フレイの喉元にぴたり、と突きたてられた。

スコール   「さて、これでチェックだ。 それとも、まだ手を残しているかい?」

首元に刃を当てられているのに関わらず、フレイは動揺もせず、転がっていった銃を視線だけで見送る。
荒い呼吸をするたび、無数の傷口からは止まらず赤い血が流れ出し続け、黒ずくめの全身は土汚れに合わせて、戦闘の前よりもずっと黒ずんでいた。
ふ、と唇だけで笑むと、スコールをひたりと見つめたまま、呟く。

フレイ   「俺がやってる、のは、ッあんたと違って、……ぐ、……チェスゲームじゃないんで、ね。……チェスなら、ここで投了だが。俺は、っ……終わり、じゃ、ない。ここで負けても、……終わりじゃ、ない」

詰み――と呼ぶに相応しい状況。しかし場違いな程に、彼ははっきりと笑う。

フレイ   「言っただろう、もう、絶対に、失わない、ってな」

身体中を貫かれ、ぽたぽたと血を滴らせながらも、そのぎらりと光る瞳の色は、最初から何も変わってはいない。
真っ直ぐに向けられる強い眼に、刃を向けているスコールが小さく琥珀の瞳を見開く。そして、ふ、と短く息を吐いて。

スコール   「見くびっていたよ。 初めは所詮道具、呆気なく折れるものだと思っていた。 が、とんだ杞憂だったようだ。」

剣を握っていない側の手をゆっくりと伸ばし、フレイの首筋に流れていた血を指で掬う。
鮮やかな赤を確かめるかのように見下ろし、目を細めて、それまでより低い声で続ける。

スコール   「だからこそ惜しいものだよ。 こうも愉快な男が、ここで消えるのはね。」

一瞬引かれた剣が、迷い無く振り下ろされる。
フレイは目を逸らすことも閉じることもなく、翳された剣を視線だけで見上げて――――


何処からか闇を裂いて放たれた蒼い火弾が、剣の降りる前にその前を掠めた。


ウェイン   「…………殺すな、という指示の筈だが?」

スコールの斜め後方、数メートルほど先。蒼い髪の青年が、掌を向け立っているのが見える。

スコール   「やぁ、君か。 そんなつもりは無かったとも。 それよりも悪かったね、後始末にわざわざ来て貰って。 見込みではもう少し、見つからないだろうと思ったのだけどね」
フレイ   「……レン……?……!?」

青年の姿に気をとられる暇もなく、その背後にあった研究施設が炎に包まれ、噴煙を上げる。
蒼い炎を上げ、木々に囲まれた小さな建物は崩れ去っていく。

負傷も忘れ、既に刃を下げていたスコールの肩に掴みかかる勢いで、フレイが身を乗り出した。

フレイ   「なッ、おい、まさか中に人がいるのに火をつけたんじゃないだろうな……!!?」
スコール   「人払いはとうに済ませているとも。 ただこれの後始末も楽ではないからね、私もこれで失礼させて貰うよ。」

フレイ   「……そ、うか。……っ」

口調や笑みを浮かべた表情とは裏腹に、乱雑な、突き飛ばすような勢いでフレイを引き剥がすスコール。
ほっと息を吐いた途端、くらりと失血からくる眩暈に襲われ、ふらつきかけた身体を背後の木に叩きつけられる。

スコール   「楽しい…… いや、面白いゲームだったよ。 機会があれば、また。」

やはり不敵な薄い笑みを張り付け、フレイや無表情で佇むウェインを置き、コートを翻すとゆっくりとした足取りで去っていった。

ぼんやりと霞む視界で、黒いコートの端が炎に照らされる闇の合間に消えていくのを見送るフレイ。
力が抜け、身体に急激に痛みが戻ってくるのを感じながら、まだそこに立っているウェインにほんの僅か顎を上げる。

フレイ   「…………助かったぜ、……さんきゅ、な」
ウェイン   「……助けてはいない。 僕は、指示に従っただけだ。」

そう言うと無表情を背け、スコールに続いて去るかに見えたが、不意に足を止めるとフレイの傍に二つ、デバイスを投擲する。
一つはテレパイプ、もう一つはタリス。 タリスからはレスタが放たれ、治癒フォトンがフレイを覆う。

ウェイン   「悪いがそのテレパイプまで耐えてくれ。 人払いをしている以上、こんな僻地まで人は来ないだろう。」

抑揚のない声を残して、今度こそ蒼髪の青年は踵を返す。
その目の先で、研究施設を包んだ炎は、施設を燃やし尽くすとほぼ同時に嘘のように鎮火し、何事もなかったように消えた。

フレイはレスタにより出血が抑えられるのを感じ、ウェインには聞こえないよう小さく息を吐いた。
木を支えに何とか立ち上がると、力なく笑顔を見せる。

フレイ   「……蜂の巣で、血の跡を引きながら、こっから歩いて帰るより百倍マシだ。……助かるよ」

ずるずると足を引き摺って、ようやくテレパイプに転がり込む。
焦げた壁面だけを残して掻き消えた蒼い炎の残滓を横目に見ながら、その身体は転送され始め、消えていく。

フレイ   「……遅い反抗期、……早く終わらせろよ、…レン」

ぼろぼろの身でありながら、悪戯気な目を最後にその姿はテレポータに消えた。
その残滓である光の粒子を横目に見て、誰にも届かない声で、蒼髪の青年は呟く。

ウェイン   「…………それまで、僕が生きていられれば、だな」

燃え尽き、崩れた研究施設の跡を横切り、スコールに続きウェインもその場を後にする。
人工月の月明かりが瓦礫を照らし、夜の静寂に野鳥の鳴き声だけが響いていた。


To Be Continued...

  • 最終更新:2016-12-03 21:16:22

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