Fateful ConfrontationA 2

マリン   「ミリエッタさん、私のものに似ているというフォトン、辿ることは可能ですか?」
ミリエッタ   「ええとっ…」

一同以外は無人になった店内、ミリエッタが瞼を閉じ、意識を集中させて感覚を研ぎ澄ませる。
フォトンに敏感な彼女の感覚は、微かな気配を感じ取り、店の奥の小さな扉を指差した。

ミリエッタ   「あっちの…奥の扉から、微かに感じます…」
イオリ   「奥……? あ、そういえばー」

扉には進入禁止、とだけあり、何の用途に使われているかは判断できない。

イオリ   「そっちは何があるのか、見てなかったねー」
マリン   「……そちら、ですか?……怪しいですね。」
レイリア   「事務所と反対側ですね~」
ミリエッタ   「進入禁止…と言われても、調べない訳には行きませんよねっ…」
イオリ   「私たちは店員なんだから関係者ですー、きっと入っても大丈夫っ」

マリンがドアに触れると、鍵はかかっていなかった。
開けてみれば階段が下に続いており、先は地下室らしい。

マリン   「……では、皆さん、準備は良いですか?」
イオリ   「……うん」
レイリア   「はいっ」
ハミュー   「はい……っ!」
ミリエッタ   「ええ…」

一列になり、ゆっくりと身長に階段を下る一同。
降りた先はそれなりに広い部屋で、無骨な機械やモニターがいくつも並んでいた。
表のカフェとは似ても似つかない雰囲気で、同じ建物とは思えない。

ミリエッタ   「ここは…この部屋は、一体…?」
レイリア   「ラボ…?」
ハミュー   「ここは……」
イオリ   「……なんていうか、お店に必要な物ってわけじゃなさそうに見えるけど……」
マリン   「……!」

辺りの様子を伺い、部屋内を探索する。
しかし、部屋の中央辺りに設置された大きなカプセルの中を確認して、一同は息を飲んだ。

その中には、マリンの姿に酷似した、人間が入っていたからだ。

イオリ   「……!?」
ハミュー   「これって……」
レイリア   「もうひとりのマリンさん?」
マリン   「ミリエッタさんの感じたフォトンは、此処からのようですね……」
ミリエッタ   「え、ええ…でも、マリンさんがもう一人って…!?」
イオリ   「ど、どういうこと……?」
レイリア   「それとも、クローン体とか…?」
イオリ   「そ、そんな感じ……に見えるけど……」

マリンがカプセルに近寄り、手で触れて確認する。

マリン   「……少なくとも、生きているものではなさそうです。」
イオリ   「し、死んでる、の……?」
マリン   「……と、いうよりは、最初から生きていない……人形のようなもの、でしょうか……」
レイリア   「ここまで精密なお人形だと、今にも動きそうですね…」
イオリ   「(そういえば……この前はメイちゃんにそっくりな「お人形」を用意して……)」

本人に酷似した人形と言えば、嫌でも思い出される前回の事件。
しかし、マリンのコピー体が用意されているというだけでは、謎ばかりで手がかりと言うには弱い。

マリン   「ミリエッタさん、確認してみて頂けませんか?」
ミリエッタ   「は、はい…分かりましたっ…」

感応力の強いミリエッタがカプセルに近付く。

すると、カプセルに触れた瞬間。
強く、攻撃的なフォトンが彼女を襲い、ミリエッタは頭を押さえ蹲ってしまう。

ミリエッタ   「ッ…!?あ、頭がっ……なに、この…フォトン…っ…」
ハミュー   「先輩?!」
レイリア   「ミリィさん!?」

慌ててミリエッタに駆け寄る四人。
イオリに抱き支えられながら、ミリエッタの脳裏に映像が流れ込む。

並ぶ機械、モニター。 恐らく、この場所の光景なのだろう。

マリン   「み、ミリエッタさん……っ」
イオリ   「大丈夫?」
ハミュー   「大丈夫ですかっ」
ミリエッタ   「…すごく、刺々しい感じが…あ…頭の中に、何かが流れ込んで…っ…!」
マリン   「何かが……流れ込む?」

彼女の頭に流れ込んだ映像は、少し高く―― 恐らく、目の前にあるカプセルの中からの視点。
並ぶ機械の前に、一人の金髪の女性が立ち、こちらを見上げている。

薄く映像がぼやけていて、表情まではわからないが、女性はゆっくりと口を開き―――

「何を犠牲にしても助けるから…… 待っていて」

その一言だけを口にして、映像は途切れた。

ミリエッタ   「っ……はぁっ…はぁ…っ…もう、大丈夫…」
マリン   「す、少し休んでも良いんですよ……?」
レイリア   「(ミリィさん、フォトンに敏感って話には聞いてたけれど、ここまで…!)」
ミリエッタ   「…カプセルに近づいた途端、妙なイメージが流れ込んで来て…」
イオリ   「妙なイメージ……?」

少し落ち着いた様子のミリエッタは小さく息を吐き、脳裏に浮かんだ映像の内容を伝える。

ミリエッタ   「…このカプセルの中から、外を見ているような…そんな視点で…金色の髪の女の人が、こちらを見下ろしていたんです…」
ハミュー   「金色……ですか……」
ミリエッタ   「…そして、その女の人の声が…「何を犠牲にしても助けるから、待っていて」、って…。」
イオリ   「この子の、記憶ってこと……?」
マリン   「………………。(金髪……?)」

マリンが口元に手を当て、無言で考え込む。
金髪と言えば自身もだが、他に自分に関わりのある金髪の女性と言えば――――

ミリエッタ   「…分かりません…言葉の意味も…どういう事なんでしょう…」
マリン   「……ミリエッタさん、また体調が悪くなったらすぐに伝えてくださいね。」
ミリエッタ   「…は、はい…」

何とか立ち上がるミリエッタにイオリが付きつつ、引き続き地下室の調査を進める。

奥に足を踏み入れると、大きめのモニター付き端末が設置されており、その横にそれよりは小さな端末が3つ、並んでいるのが見えた。
マリンが大きめの端末に触れ、操作を試みる。
      
マリン   「……この端末…… データが入っていますね……」
ハミュー   「何かてがかりが……?」
マリン   「しかし、モニターは黒いままですし…… ロックがかかっていて……」
ハミュー   「さすがに端末ごともってかえるには……無理がありますよね……」
イオリ   「うー……コンピューターはあんまり得意じゃないー」

キーを叩いてみるマリンだが、専門でもないのでそう簡単にロックが外れるわけもない。
すると、暫く様子を見ていたミリエッタが口を開く。

ミリエッタ   「…隣の3つの端末から、フォトンの流れを感じます…」
ハミュー   「フォトン……ですか??」
マリン   「……? つまり、この大きな端末と繋がっている、ということですか?」
ミリエッタ   「はい…そうみたいです。調べてみたら、何か分かるかも…」

繋がりがあるのなら、そちらを操作すればロックを解く手段に繋がるかもしれない。
おもむろにイオリが一つ目の端末に近寄り、キーに触れる。

ミリエッタ   「わ、イオリさんっ?大丈夫なんですか…?!」
ハミュー   「無闇におさないほうが……」
イオリ   「だ、だって……何かしらの情報は得られそうなんだしっ」
マリン   「……そうですね。私は、この端末を操作してみるので……」
マリン   「試しに、そちらを操作してみて頂けませんか?」

イオリ   「これー?」
マリン   「……危険かもしれないので、十分注意してくださいね。」
ハミュー   「きをつけてくださいねっ」

イオリが、がちゃがちゃと適当にキーを叩く。

と、同時に。
ガコン、という音が聞こえたかと思えば、イオリの足元の床が抜け、一同の視界からイオリが消える。

イオリ   「ひゃっ!? わ、わっ!?」
ミリエッタ   「わっ、イオリさんー!?」
レイリア   「イオリさん!!?」
マリン   「いっ、イオリ!?」

慌てて駆け寄り、唐突に開いた床の穴を覗き込む四人。

そこにいたのは……
カラフルな大量のぬいぐるみに埋もれ、その上に尻餅をついているイオリだった。

ハミュー   「だ、だいじょうぶですかっ!?」
イオリ   「は、はいー、無事ですー」
イオリ   「この子たちのおかげで……」
ハミュー   「……大丈夫そう、ですね……」
ミリエッタ   「…よかった…それにしても、凄い量のぬいぐるみですね…」
マリン   「……と、とにかく、掴まってください」
イオリ   「あ、ありがとうー……」

マリンが落とし穴の中に手を伸ばし、ファンシーなぬいぐるみにまみれているイオリを引き揚げる。

イオリ   「ふー……ありがと、マリンー」
ハミュー   「なんというか……意図がわからないですね……」
マリン   「……はい。 罠で侵入者を撃退するつもりなら、もっと……」

仮にぬいぐるみではなく、本格的なトラップが敷かれていれば、ただでは済まなかっただろう。
誰もこの罠の意図が読めず、視線は残った二つの端末に集まる。

ミリエッタ   「……調べてみない訳には、いかないですよね……」
レイリア   「…ですよね」
ハミュー   「しかたないですね……」

マリン   「えぇと…… 方向性は間違っていないようなのですが……」
ミリエッタ   「……?モニターが、どうかしました?」
マリン   「ロックが一部外れているんです。 一部アクセス可能になっていて……」
ミリエッタ   「ロックが…!?わ、分かりました。じゃあ、次は私がっ…」
ハミュー   「また罠があったら大変ですし……もうひとつは僕が操作してみますね」
マリン   「ご、ごめんなさい、皆さん…… ありがとうございます……」

二つ目の端末に近付いたミリエッタが、恐る恐るキーに指を伸ばす。

ミリエッタ   「…えぇいっ。」

キーを叩くと、そのモニターが一瞬光を放ち、一同は目を細める。

……が、それだけ。特に何かが起こった様子は無い。

マリン   「……?何も起こらないようですが……」
ハミュー   「うん……」
イオリ   「だ、大丈夫、みたい……?」


ミリエッタ   「……?な、なんともなかったみたい……にゃ。」


レイリア   「にゃ?」
マリン   「……はい?」
イオリ   「……にゃ?」
ハミュー   「先輩?」

唐突にふざけだしたともとれる、真面目な彼女らしからぬ語尾に、視線が一斉に集まる。

ミリエッタ   「…ふにゃっ!?な、なにこれっ、なんで私こんな喋り方になってるにゃ!?」
ハミュー   「えっ……」
イオリ   「ふふ、ミリィちゃんかわいいー」
レイリア   「猫耳メイドに…」
ミリエッタ   「違うにゃ!おかしいにゃっ…にゃ~~っ!どうなってるにゃ~~!!」

混乱気味に自らの口元を押さえるミリエッタ。
急に語尾が変わった、原因があるとするなら――――


マリン   「…………ま、まさか、今の端末の影響……!?」
ハミュー   「……ますます意図が……」
レイリア   「ご、語尾が「にゃ」になる呪いでしょうか…」
ハミュー   「(でも……なんだか似合う気がします……)」
ミリエッタ   「ふみゃぁ~……」

イオリに抱き締められたまま困り顔で、頭の猫耳に相応しい言葉を話す。
もしこのまま元の話し方に戻らなければ、それなりに困るかもしれないが……

マリン   「…………あ。 ……えぇと、またロックが外れたようです。 ありがとうございます……ミリエッタ……さん?」
ミリエッタ   「…い、いえっ…これくらい、どうということはないですにゃ…。…ふにゃぅ…」

レイリア   「なんでしょう…これを作った方、おちゃめというか…」
イオリ   「(この前はあんなことがあったし……なんか、イメージ違うっていうかー……)」
ハミュー   「……子供のいたずらみたいですね」
マリン   「ハミューさんの言う通り、全く意図が読めません……」

マリン   「(……この発想…… というか、ユーモア……)」

困惑しながらも可愛らしく話すミリエッタを見て、マリンは過去を想起するように、目を細める。


《マリン、ゲームしましょ! 名付けてにゃんにゃんゲーム! にゃん、って付け忘れたら負けね、にゃん?》


マリン   「(…………)」

ミリエッタ   「そ、それよりも調査を続けにゃいとっ。ハミューくん、最後の端末をお願いにゃ…!」
ハミュー   「この3つ目でロックがはずれればいいんですけど……」

マリンが考えている間に、ハミューが最後の端末のキーに指をかける。

ハミュー   「では……いきますっ」

機械関係に詳しいハミューは、手馴れた様子でキーを叩く。
すると、ハミューが操作した端末のモニターに突然、不釣合いなほどファンシーな字体で文字が表示された。

【アナタとっておきの、可愛い決めポーズと決め台詞をモニターにお願いします! なお、動画は永久保存されます☆】


レイリア   「…………」
ミリエッタ   「………にゃ?」
イオリ   「ふふ、保存されたデータはもらえるのかしらー」
マリン   「……? すみません、モニターに何か書いてあるのですか? 此処からでは見えないのですが……」

四人が微妙な反応を示す中、ハミュー本人は、

ハミュー   「……はっ」
ハミュー   「悪い夢でもみてたようです……」
イオリ   「えー」
ミリエッタ   「ハミューくん?!帰っちゃダメにゃ~!!」

何も見なかったことにして踵を返すのを、ミリエッタが(猫語で)引き止める。

ハミュー   「……」
ミリエッタ   「とっておきの可愛い決めポーズと、決め台詞を要求されてるみたいですにゃん。」
マリン   「……それは、また……」
レイリア   「男を見せる時ですね!!」
イオリ   「男を見せるときですねー」
ミリエッタ   「さっき、お客さんにリクエストされてやったばかりにゃ。もう一度、同じ感じでやれば大丈夫にゃっ。」
ハミュー   「……今日はとことん……ですね」

ハミュー   「で……では」

一同の激励で覚悟を決めたのか、今日何度目かもわからない深い溜息の後、一歩前に出るハミュー。

すると、腰に手を当てた女性的なポーズで、初々しいウィンクと共に台詞を放つ。

ハミュー   「またきてね、ご主人様」

ミリエッタ   「……!」
イオリ   「ふふ、かわいいー!」
ハミュー   「……」
ハミュー   「(今日ほど引きこもりたくなった日は……ないかもしれない……)」

女性と比較しても何の遜色も無い愛らしさを披露した後、深く頭を抱えるハミュー。
女装に慣れてきているのでは? とマリンは心で思ったが、口にするのは控えた。

これでロック解除……と思われたが、何故か騒がしいファンファーレが響き、モニターにもう一度文字が表示される。


【最高でした!! でももう一回お願いします!】

ミリエッタ   「にゃにゃっ!?」
ハミュー   「なにをですかっ……っていうかどこかで誰かみてませんかっ」
イオリ   「今度はマリンー?」
マリン   「……い、いえ、私はちょっと……」

全力で視線を逸らすマリン。

マリン   「わ、私は、この端末の操作に専念しなければいけないのでっ」
マリン   「レイリアさん、お願いしますねっ!!」
イオリ   「(あ、うまいこと押し付けた)」
レイリア   「お、押し付けられたような…!!」
ハミュー   「レ、レイリアちゃん・・・あとはたのみますね……」
ミリエッタ   「…レイリアちゃん、頑張ってにゃ…」
レイリア   「うーん… ポーズと決め台詞…?」

首を傾げつつ、モニターに近付いていくレイリア。
少し考えてから、

レイリア   「おかえりなさいませ、ご主人様!」

両手を広げた、可愛らしいアピールをする。

レイリア   「よし!」
ハミュー   「さすが……かわいいですね」
ミリエッタ   「にゃはっ、かわいいにゃ~」
イオリ   「ノリノリですねー、かわいいー」

いっそ清清しいような、何かが吹っ切れた表情のレイリア。
そして、再び壮大なファンファーレと共に、モニターに文字が表示される。


【超可愛い! 抱き締めたいです!】

レイリア   「やっぱり誰か見てますよね!?」
イオリ   「抱きしめたいですねー」
ミリエッタ   「みゅ~…さっきからこのモニターの反応は何なのにゃ…」
マリン   「ふふ…… ……あ、ロックが外れた……!」
イオリ   「外れた……!?」

マリンの言葉通り、データのロックは外れアクセスが可能となっている。
すぐに自らの端末を取り出し、接続して抽出を試みるマリン。

ミリエッタ   「……!何か分かりそうですか!?…あっ。」

イオリ   「あれ、ミリィちゃん……」
ハミュー   「……なおってますね……」
レイリア   「語尾が戻ってます!」

全ての端末にアクセスしたからなのか、理屈は不明だがミリエッタの話し方も元に戻った。
ほ、と安堵の息を吐く本人。

ミリエッタ   「も、元に戻りました…よかったぁ~…」
ハミュー   「(もうちょっとあのままでもよかった気もします……)」

しばらくしてデータのコピーが完了し、マリンが自らの端末を回収。
そして一同に振り返り、頷く。

マリン   「データはとれました。 暗号化されているので、中身は帰還してからでないと確認できませんが……」
マリン   「……長居は無用ですね。 脱出しましょう、皆さん。」
ハミュー   「……そうですね」
レイリア   「はい!」
ミリエッタ   「はいっ…」
イオリ   「はーい」

階段を上がり、地下室から脱出する一同。
カフェに戻ると、スタッフのメイド達が接客を続けていた。

スタッフ   「あ、皆さん、今日は早めに閉店することになったので、切り上げて大丈夫です! ありがとうございました!」
ハミュー   「お、お疲れ様です……」
ハミュー   「(今日のことはすっぱり寝て忘れよう……)」
イオリ   「わ、はーい、お疲れさまですっ」
マリン   「では着替えましょうか、イオリ、ミリエッタさん、レイリアさん、ハミューさん。」
ハミュー   「はい!!!!」
ミリエッタ   「はい~」
レイリア   「はーいっ」

一同が元の服装に着替えると、任務は完了で解散ということになった。

マリンの持ち帰ったデータは複雑に暗号化されていて、解析には時間がかかっている。
現状の解析でわかることは地図データが含まれており、何処かの座標が示されているということだが……


To Be Continued...

  • 最終更新:2016-11-13 21:02:03

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