Exceed! C

マクベス 「…クロエ!!」

刹那。 ガキン、という音と共に、振り下ろされた両剣が止まった。
驚異的なスピードで2人の間に割って入ったマクベスの刀が、寸でのところで剣を食い止めている。

マリン 「――― ッ、………」

見れば、イオリ、シャムシール、ルリの3人も、その少し後方でこの惨状を見つめていた。
戦闘音や声を聞きつけ急いで駆けつけたのだろう、息も少し切れている。

ルリ 「…………ッ!!?」
イオリ 「ま、りん……?」
シャムシール 「……。」
マクベス 「……これは、一体…」
マクベス 「…一体、どういう事だ?」

剣を合わせる二人が、油断なく視線を交わす。
その間に、ルリがブーツを起動させ倒れるクロエの元に急いだ。イオリもはっとしてそれに続く。

マリン 「そう、王様は力なきものにも手を差し出さなければいけないのね……」
マリン 「貴族の責務―― ノブレスオブリージュ、ってやつかしら?」
マクベス 「…何故、こんな様になっている?」
マリン 「アンタの飼い猫に聞いたらどうかしら? それとも、アンタが代わりに剣の錆びになる?」

感情の読めない表情を浮かべていたマリンが、軽く口元を歪めて答えた。
マクベスは背後でルリがクロエにレスタをかけているのを一瞥すると、一太刀マリンに斬りかかる。

極めて洗練されていることが一目でわかる、神速の一撃。 マリンはそれを両剣で受け止めた。
キィン、という金属音が再び辺りに響く。

クロエ 「……ぁ…」
ルリ 「クロエさんっ……!! ……だめだ、出血が……」
ルリ 「……ッ、まって、マリンっ! あなたも……!」
イオリ 「る、ルリ、血がっ……レスタじゃ追いつかないっ」
マクベス 「…触れるな…」

マクベス 「……クロエに触れるな!!」


有無を言わさぬ圧力で、後方に叫ぶ。
また動かなくなったクロエを手当てしていたルリ達は、ぎくりと体を強張らせた。

続けて剣を弾き飛び退くと、クロエの傍まで下がる。

ルリ 「……っ」
マクベス 「…随分と聞いた話と違うな、マリン・ブルーライン…」
マリン 「女はころころ変わるものだからね。 今は失せなさい、王様。」
イオリ 「(どうして、こっちのマリンが……)」

気を抜かず視線を交えたまま、お互いに距離を取る。
マクベスは気を失ったクロエを抱かかえると、あくまで余裕を失わずに口を開いた。

マクベス 「赤髪。」
マクベス 「その女はお前達に任せる。」
ルリ 「……っ……」
マクベス 「先程も言ったが…その女が求めるなら、いずれ「挨拶」に行こう。」
マリン 「ふぅん。 手遅れじゃないと良いわね、その玩具。」
マクベス 「…このままでは済まさぬぞ、ブルーライン」

そこまで言うと、人1人を抱えているとは思えないスピードで、マクベスはその場を後にした。

ルリ 「……大事、なら……ちゃんと、大事にすれば、いい、のに」
シャムシール 「……。」

小さくなっていく後姿を2人が見送っていたが、すぐにマリンに視線を移す。
イオリ、シャムシール、ルリ、そしてすっかり髪と眼が紅く染まったマリンがその場に残された。


イオリ 「マリン……いったい何が……」
マリン 「久しぶりね、ルリにイオリ、それにあなたも。 元気してた?」
イオリ 「……うん、久しぶりだね」
ルリ 「……どうして。何があったの」
シャムシール 「…久しぶり。ですか?」

マリンは戦闘の傷が痛々しく残っているが、気にもかけずにこ、と笑う。
勿論、対する3人は笑顔で返せる状況ではない。疑問はいくつでもあるが、一度に答えることはできない。

レスタをかけるイオリに手を振って礼の意を示しつつ、まずはルリの質問に答えた。

マリン 「何って、見ればわかるでしょ。 「私」とアイツが戦って、結果は見ての通り。 それだけよ。」
ルリ 「……」

つい先程分かれるまでは金髪だった、マリンの髪を見やる。

マリン 「アンタはわたしを知らないだろうけど、わたしはアンタを見てたわ、シャムシール。だっけ?」
シャムシール 「一方的に見られるってのは、ちょーっと苦手ですけど。…まあ、俺としてははじめまして、って気分ですね…。」
マリン 「ま、この身体の居候みたいなもんよ。―――今までは、ね。」
イオリ 「今までは?」

イオリが聞き返す。

マリン 「見ればわかるでしょ。 わたしがアンタに会った時、この髪は赤かったかしら?」
イオリ 「……金色だった、ね」
マリン 「ま、そゆことよ。 じゃあ、元の主はどうなったのか……」
イオリ 「……で、でも、あのときも瞳は赤かったしっ……」
イオリ 「だから……」
マリン 「あのね、わかるでしょ、イオリ。 わたしは楽しそうなこと以外でわざわざ出てこないわ。」
マリン 「用が済んだら戻る。 でも、それができない…… つまりね―――」
イオリ 「…………」



マリン 「―――死んだの、あの子は。」




ルリ 「…………え?」
シャムシール 「……。」

あまり笑顔を崩さないシャムシールが眉間に皺を寄せる。

単純な話だ。
二つの物が入っている器から、その内一つを取り除いたら、その器に残っているのはもう一つだけ。

マリン 「別におかしくないでしょ?あなた達は、他の誰かに身体を渡そうとして渡せる?」
マリン 「渡せないでしょう? それは自分の中に、その「他の誰か」がいないから。 それと同じよ。」
マリン 「わたしの中に、誰もいないから代われない。この身体の中にいるのはわたしだけ。」
イオリ 「……ぇ……あ……」
ルリ 「……っ」

崩れ落ちたイオリにルリが駆け寄って支える。そのまま、マリンに聞き返した。

ルリ 「…………どこ、にも?」
イオリ 「……ぁ、ご、ごめん、大丈夫、ちょっとめまいがしただけ……」
シャムシール 「……。俄かには、信じられないですね。」
マリン 「ここにいなかったらどこにいるってのよ。 ま、心が死んだのよ。 どうしようもないでしょ?」
ルリ 「こころ……、……!」
ルリ 「そう、だ。どうして……どうして、あなた、クロエさんと戦おうと思ったの」

少し話があると言い別れて、戻ってみればこの惨状だったのだから当然の疑問である。
だが事実として、2人の戦いに「このマリン」は関与していない。

マリン 「あの子が始めたことの理由をわたしに問われてもね……」
シャムシール 「……。」
マリン 「ま、良いじゃない。 死んだとは言ったけど、アンタ達からすればただ単に性格と見た目が変わっただけ。」
マリン 「別に、気にするほどのことじゃないでしょ?」
イオリ 「ちがうよ……」

即座にイオリが否定する。ルリも何事か発そうとしていたが、イオリの言葉が重なりそちらを見た。

ルリ 「……」
イオリ 「「マリン」と、「マリン」は……別の人だもの……」
マリン 「フーン。 じゃあ、こうしましょう。」
マリン 「肉体が滅びれば流石にどうしようもないけど、体はここにある。 あの子が戻る可能性は、ゼロではないでしょうね。」
イオリ 「……!」

俯いていたイオリが、その顔を上げてマリンを見る。

マリン 「その方法、皆で考えて見ましょう? じゃ、イオリから。」
イオリ 「……え? えっ? 急に言われてもわかんなっ……」
マリン 「でしょ。 わたしにだってお手上げだわ。」
マリン 「ルリ、シャムシール、あなた達はどう?」

じっと話を聞いていた二人に振ると、シャムシールが先にその口を開いた。

シャムシール 「…心の蘇生ねぇ。例えば、ですけど。貴女が出て来るのと同じような状況を試してみる、とか?」
シャムシール 「そもそも、なぜ今まで見てただけの貴女がここに?」
マリン 「……わたしに立ち直れないほどのショックを負え、ってことかしら?」
マリン 「さっき言ったでしょ。 この身体は元々あの子のものだから、わたしは見てるだけ。 でも、もうあの子がいないもの。」
マリン 「だから、私が出てきちゃったわけ。」
ルリ 「……ショック……」
シャムシール 「過激な方法ですねぇ…」

ルリ 「……マリンが、立ち直れないくらいのショックを負ったってこと、だよね」
イオリ 「そう、だね……」
マリン 「ええ、そうよ。 あの仔猫の言葉で、「私」の心は壊れた。」
ルリ 「……ことば?」
シャムシール 「……。」

認めるわけにはいかない本当の自分、それを受け入れるには彼女の心は脆すぎたと言える。
今までの闘争欲求の全てを、今発現している「裏」のマリンのせいにしていた分、自分への嫌悪がキャパシティを越えてしまった。

マリン 「それと同じように、あなたが言葉でわたしの心を折ってくれるのかしら?」
シャムシール 「まぁー、言葉でダメなら行動で、って手もありますけど。…そーいうのは、選べないでしょうねぇ。」

物騒な会話の内容とは裏腹に、にこりと笑いかけるマリンに対してシャムシールも笑顔で返す。
どうしたものか、とシャムシールはルリとイオリに視線を向けた。

ルリ 「…………」
ルリ 「……マリンは、何を言われたの」
マリン 「くだらなすぎて、がっかりしても知らないわよ?」
イオリ 「何を言われたの?」
マリン 「本質を突かれただけよ。 アイツと戦い、斬ってる時に、笑って… 喜んでいたから。」
マリン 「ほんっとに、バカらしい話よね。 ただの自殺だわ? そんなことを突かれたぐらいで、この有様なんて。」

今話している「裏」のマリンに、闘争やその結果としての殺生に対する負い目はない。
だからこそ、壊れてしまった「表」に苛立っているのだが。

シャムシール 「…!」
イオリ 「そっ、か……」
ルリ 「……そんなに、嫌だったのか……」
シャムシール 「…そういえば、あの時も…。」
マリン 「ま、良いじゃない、細かいことは。 ルリは何かアイデアでもあるの?」
ルリ 「……アイディア、とか。そういうのじゃない、けど」
ルリ 「……誰も、マリンのこと。……そんなことで、嫌いになったりしないのに、って。思ったの」
イオリ 「そうだよね……」
マリン 「そう。 死人に口も耳もないのだから、それも意味はないわね。」
マリン 「じゃ、もう良いわね。 引き上げましょう? 目的は達したんでしょう?」
イオリ 「マリン」

話を区切り、怪我もそのままにマリンがすたすたとテレポータに向かうのを、ゆっくりとした動作で立ち上がったイオリが呼び止める。
他の2人もその動向を見守っていた。

マリン 「何かしら、イオリ。 唐突に変なアイデアでも降りてきた?」

言い終わるが早いか、イオリがマリンの背後から抱きつく。
抱きつかれたマリンは振り払うでもなく、ただ無表情で微かにそちらを向いた。

マリン 「………」
イオリ 「……ありがと、マリンのおかげでちょっと冷静になった」
マリン 「……変なの。 取り乱す理由も、わたしがそれをどうにかする理由もないじゃない。」
イオリ 「取り乱す理由ならあったよ……でも、そうだね、マリンがどうにかする理由は別になかった」
イオリ 「それでも、マリンはしてくれたよ」

抱きついたまま、頭を撫でる。 そこまでされると流石のマリンも露骨に溜息を漏らした。

マリン 「……相変わらず変人ね、あなた。 いえ、ここまで来ると変態だわ。」
イオリ 「そう? 何も変なことなんてないよ」
イオリ 「マリンの言ったとおりだった……「マリン」の身体はここにあるんだもの」
イオリ 「また会える……会おうとしなきゃダメだよね」
マリン 「わかった、わかった…… 放しなさい、暑苦しいわ……」
イオリ 「もうちょっとだけ……」

先程より強く回された手をぽんぽんと軽く叩くが、比較的満更でもないように見えた。
そんな様子を見て、ルリとシャムシールはほっと息を吐く。

ルリ 「(……クロエさんが、マリンの本質を突いたことが原因だったのは、間違いないとして。……)」

少しだけ胸を撫で下ろしながら、唇に指を当てルリは思案する。

ルリ 「(……なら、どうして。「マリン」とクロエさんが交戦することになった?)」
ルリ 「(……もう一度……会う、必要が、あるんだろうか。でも……)」

「このマリン」は、重要な部分をぼかしている。
クロエがマリンの本質を指摘するだけなら、お互いに戦うほどの理由はないだろう。
むしろマリンが自らの本質を否定している以上、絶対に戦いは避けるはずなのだ。

マリン 「どしたの、そんな真面目な顔して。 忘れ物でもした?」
ルリ 「……えっ? んん……」
ルリ 「……とりあえず、マリンの体は、あなたに預けておいたままの方が、いいだろうなって」
ルリ 「……これも、変な言い方かな。あなたの体でも、あるんだし」
マリン 「わたしはあの子みたいに温くないわ。 こんな傷目じゃないくらい、過激な使い方をするかもしれないけど?」
ルリ 「そしたらちゃんと怒るから」

体は同じでも、心は別の物。 それを見て、シャムシールが茶化すように言う。

シャムシール 「マリンさん…って呼んでいいもんですかねぇ。」
マリン 「…好きに呼びなさい。 どうせ、「わたし」に名前はないんだから。」
ルリ 「……「わたし」……赤……」
ルリ 「……赤さん……は、別の意味だし……」
マリン 「……何不吉なこと言ってんの? 良いから、さっさとキャンプシップに上がるわよ。」
イオリ 「でも、名前がないなら……かわいい名前つけてあげたいねー」
シャムシール 「じゃあ、今度までにどう呼ばれたいか考えといてもらうのもいいかもですねー。」
マリン 「余計なことしなくて良いっての! マリンで良いわよ、マリンで!」

各員があれこれと唸りながらシップに向かう。
ふとルリが後ろを振り返るが、フォトンの波を微かに感じるだけ。 ゆっくりとまた歩き出した。

シップ内で話し合った結果、結局今の「マリン」をどう呼ぶか、その名前は決まらず。
そして、心を折った元のマリンを呼び戻す案も、やはり浮かぶことはなかった。

再び「マリン・ブルーライン」が現れる日が来るのか、今はまだわからない。


To Be Continued...

  • 最終更新:2015-06-17 23:49:05

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