Exceed! A

シャーレベン浮上施設拠点。
チームからシャムシール、マリン、ルリ。 そして、マリンが助っ人として呼んだイオリ。
4人が集い、直接任務内容を受け取ったマリンから作戦説明が為されようとしていた。


マリン 「あまり時間もないので…先に作戦の概要を説明しますね。」
イオリ 「あ、はーい、お願いー」
シャムシール 「…了解です。」
マリン 「目標はナベリウスの森林です。 作戦目的は、ある程度探索した後、奥地で……」

そこまで言うと、手に持った小さな機器を3人に見せる。

マリン 「…この装置を設置し、作動することです。」
イオリ 「それは・・・?」
ルリ 「……?」
マリン 「……この装置がどういうものなのか、詳しくは私にも知らされていません。 何でも、壊世地域の調査に関連するものだとか…」
シャムシール 「……。」
マリン 「現在リリーパの壊世現象が確認されていますが、ナベリウスも依然油断できません。」
イオリ 「ふむふむ・・・?」
マリン 「人手は多いほうが…ということで、皆さんをお呼びしました。」
ルリ 「ん……大事そうな任務だしね」

そこまで言うと一度話を切り、一同を見渡した。

マリン 「作戦説明はこんなところです…質問などはありますか?」
イオリ 「んー・・・たぶん大丈夫っ」
ルリ 「……うん。私も、特には。大丈夫かな」
シャムシール 「了解、しました。…ちなみに、それはどちらからの依頼なんですか?」
マリン 「ミス・リヒャルダです。 以前にも森林で同じような任務を頼まれましたが、関連性は不明です……」
シャムシール 「なるほど…。俺からも、とくには大丈夫です。」

各員が大方任務内容を把握する中、ルリは既にナベリウスの天候状況などを端末で調べている。
それをイオリが横から覗き込み。

イオリ 「雨降ってる?」
ルリ 「んー、今は大丈夫そう。……大型反応がちらちら、ってところだけど」
マリン 「確かに、大型原生生物との交戦も有り得ますね…それぞれ、注意を怠らないようにしてください。」
イオリ 「壊世地域に関わる・・・なんて言われると、普通じゃないエネミーなんかも出てきたりするかもだしねー」
シャムシール 「大型ですかぁ。こわいですねー。気を付けておかないと。」
マリン 「はい…では、出撃しましょう。」
イオリ 「はーい」
ルリ 「了解っ」
シャムシール 「よろしくお願いしますね。」



各員が一度解散し、ロビーで合流し直す。
4人でキャンプシップに乗り込むと、それぞれが装備の確認を始めた。

ルリ 「ふふ、全員合流ですね」
マリン 「よろしくお願いします…気を引き締めて行きましょう。」
イオリ 「はーいっ」
ルリ 「ん、頑張ろうっ」
シャムシール 「はーい」


森林に降下した一同が探索を始める。
原生生物の攻撃も疎らで、特に苦もなく各員は歩を進めた。
しかし、やがて雨がぽつぽつと地を叩き始める。

マリン 「…降ってきましたね…」
イオリ 「降ってきちゃったねー・・・」
シャムシール 「ん、あぁ。…視界が悪いですね…」
マリン 「…ここまでは、原生生物もあまりいませんね。 特に変わったところもありませんし…」
イオリ 「そうだねー・・・」
マリン 「ですが、油断しないように…慎重に、ゆっくり進みましょう。」
シャムシール 「そうですねー」
イオリ 「はーいっ」
ルリ 「ん。……機械も、壊れないようにね」
マリン 「ふふ、大丈夫ですよ、丁寧に扱っています。」

エネミーの攻撃が少ないこともあり、一同はある程度リラックスして探索を進めていた。
が、前方に見えてきた巨大な木の下に、雨を避けるように佇む人影を確認する。

マリン 「…? 誰かいる…?」
クロエ 「……」
イオリ 「雨宿りかしら・・・こんばんはー」
シャムシール 「…!」
ルリ 「…………!」
クロエ 「……こんばんは。」

注意深く観察し、その姿がはっきり見て取れると、イオリ以外の3人が目を見開く。
以前にも任務中に出会った、人形のような整った顔に緩いウェーブを結った髪。
こちらの姿を認めるとにこりと笑って会釈する、彼女の名は――

マリン 「あなたは確か……クロエさん、ですね。任務中、ですか?」
シャムシール 「……」
クロエ 「いえ…… 少し、お話ししたいことがあって。」

クロエの視線はシャムシール、イオリ、ルリに移ると、最後にマリンに向けられた。

イオリ 「(知り合い、なのかな・・・あんまり仲よさそうじゃないけど・・・?)」
マリン 「……私達に、ですか?しかし……」

マリンが手に持つ機器に目をやり言い淀むと、クロエは首を横に振る。

クロエ 「マリンさんとですわ。……大事なお話なので、申し訳ありませんが、二人にしていただけないかしら?」
ルリ 「…………」
マリン 「……私に、一対一で……?」
イオリ 「oO(大事なお話・・・任務中にわざわざ・・・?)」
シャムシール 「……。」

4人全員が訝しげな表情になり、顔を見合わせる。

マリン 「えぇ、と……わざわざこの場で、ということは、大事なお話なのですよね?」
クロエ 「もちろん。大事なお話ですわ、ええ、とても。……お初にお目にかかるお嬢さん、それにルリさん、シャムシールさん。」
ルリ 「……大雑把な内容も……聞けないような?」
イオリ 「私たち、ちょっと頼まれごとをしてここにきてるのですよー」
イオリ 「そのあとじゃダメなのかしらー?」
クロエ 「ごめんなさい、お忙しいのは承知しています。けれどわたしも、仕事の合間の僅かな時間…」
クロエ 「どうしても今がいいのです。だめかしら…」
イオリ 「だって、マリン?」
シャムシール 「……何の話かを詮索するつもりはないですけど。マリンさんの安全の保障は、当然あるんですよね?」
マリン 「いえ…問題ありません、シャムシールさん。……わかりました。 そのお話、お聞きします。 」

気遣う一同の一歩前に出て、マリンが告げた。
それに3人の視線が集まる。

シャムシール 「……。貴女がいいなら、それで。」
イオリ 「じゃあ私たちはこのあたりで待ってるねー」
クロエ 「……いえ、よければ先に。大事な任務なのでしょう?」
クロエ 「すぐに終わらせますから。…ね?」
マリン 「…。そうですね、あまり長引かせるのは得策ではありません。 申し訳ありませんが、皆さんで先に向かって頂けませんか。」
マリン 「この装置は…そうですね、ルリに渡します。」

ルリに近寄り、丁寧に扱っていた装置を託す。

ルリ 「………わかった。追いかけてくるときも、気を付けてね」
マリン 「ええ…お任せするのは心苦しいですが、3人ならきっと問題ないはずです…」
マリン 「申し訳ありませんが、お願いします、皆さん。」
イオリ 「はーい、マリンも気をつけてねー」
シャムシール 「了解しました。マリンさんもお気をつけて。…それでは、また後ほど」
ルリ 「……風邪、ひかないように、してくださいね」
クロエ 「……。ええ、ありがとう」

シャムシールの視線とルリの言葉は、クロエに向けられたものだった。
にこ、と彼女は微笑みで返す。

マリン 「……いってらっしゃい、3人とも。 どうかご武運を…」
イオリ 「うん、マリンもまたあとでねー」
ルリ 「……いきましょう、イオリ。シャムシールさん」
シャムシール 「はい~!」




マリンとクロエを残し、3人は森林を進む。

イオリ 「原生種もダーカーもぜんぜんいないねー・・・」
ルリ 「……うん」
シャムシール 「気は抜けないですけどねぇ…」
イオリ 「そうですねー、油断大敵ですー」

手に抱く機器を気にかけつつ、周囲を警戒する一同。
そうして歩を進める中、またも樹の下に人影を確認する。

マクベス 「……っ、くし…」
ルリ 「……っ?」
イオリ 「あら・・・?」
マクベス 「…ちっ…」
ルリ 「…………ぁ、っ」
シャムシール 「……あれ、は…。」
イオリ 「・・・? どうかした、ふたりとも・・・?」
イオリ 「こんばんは、あなたも雨宿りですかー?」
マクベス 「…こんばんは、お嬢さん」
マクベス 「雨宿りするには、いささか濡れすぎてしまったが…」
イオリ 「ちょっと葉っぱの少ない木でしたねー」
マクベス 「……」

前に出て挨拶するイオリの背後の二人を見て、男は僅かに反応を見せる。
それに対して、ルリが何事か言おうとして数度口を開閉させた後、ようやく言葉を絞り出した。

ルリ 「………ディヴェローナの……」
シャムシール 「どうも。……お久しぶりです、ってところですかね。」
イオリ 「ディヴェローナ・・・あっ・・・!」
イオリ 「oO(前聞いたロミオくんの姓が確か・・・)」
マクベス 「………」
ルリ 「…………どうして、また。……クロエさんとも、離れて」
マクベス 「……クロエと会ったのか」
イオリ 「oO(クロエさんとも知り合いで・・・さっきの二人の反応、そういうことだったんだ・・・)」
ルリ 「……会いました。……マリンと、話が、って」
マクベス 「……」

合点が行ったように男――マクベスは目を細め。

マクベス 「…成程。単独行動の許可を求める故、何事かと思ったが…」
マクベス 「何があの黒猫の琴線に触れたのか…セラフィナの娘、よ…」
イオリ 「マリンって名前ですよ、かわいいでしょう? そう呼んであげてください」
シャムシール 「oO(……セラフィナ…)」
マクベス 「…マリン。マリン…ブルーライン…か。」
マクベス 「ご親切に有難う、お嬢さん」
マクベス 「…それで、クロエと…マリンは、何処に? …ただ置いて来たのか、二人を?」
イオリ 「お二人とは別れてきましたから、私たちにはわかりませんねー」
ルリ 「……大事な話だから、と。先に……」
マクベス 「…成る、程…」
イオリ 「心当たりでもー?」
マクベス 「いや…ただ、厄介事に成らなければ良いが、とね」
イオリ 「どういう意味ですか?」
シャムシール 「厄介事…とは。二人を残す事に、心配でもあるんですか?」
マクベス 「そのままの意味だ。クロエが何者かに興味を示すことなど、早々ある事ではない」

そこまで言うと、ずっと固い面持ちだったルリがずかずかとマクベスに近付くと、がっと腕を掴む。
そして、目も合わせず一方的に引きずるように歩きはじめた。

ルリ 「……っ」
マクベス 「…む。」
イオリ 「る、ルリっ」
ルリ 「……奥にっ、広い屋根がある岩場があるはずですからっ!」
シャムシール 「…あぁ、なるほど。 水も滴る良い男でも、風邪ひいちゃかっこつかないですよー。」
イオリ 「・・・ふふ、そうでしたね、私たちも依頼されたお仕事を片付けないといけませんしー」
マクベス 「……う、む…?今更雨宿りしろと…?」
イオリ 「oO(マリン・・・)」
ルリ 「火でも炊けばいいんです!!」
マクベス 「…」
ルリ 「良く燃えるでしょうから!!」
マクベス 「…まあ、このままここで待つよりは良かろう」
ルリ 「……ふたりもっ、それでっ、いいですかっ」
イオリ 「うん」
シャムシール 「俺は構いませんよー。」
マクベス 「……」

不思議な迫力に圧され気味のマクベスを引きずり、一同は奥地までやってくる。
引きずっているルリはというと、怒っているようなそうでないような複雑な表情で。

シャムシール 「あー…ちょっと、デカい反応ありますね。」
マクベス 「……ああ。そのデカいのに用があって、私はここへ来た」
イオリ 「じゃあ早いところ目的を達しちゃいましょうー」
イオリ 「oO(マリンたちのことも気になるし・・・早く戻らなきゃ)」
シャムシール 「へぇ…おにいさんも戦うんですかぁ」
マクベス 「…何か可笑しいかね?」
シャムシール 「いーえ。立派な身なりをしてるんで、そういうのとは無縁かと思っただけです。」
マクベス 「立派…意識した事は無かったが…」

話し合う一同に背を向け、ルリはむくれ顔のままフォイエで火を起こしている。

イオリ 「oO(ルリかわいいー)」
シャムシール 「…いいスーツが汚れないように気を付けて…ってもう濡れてましたけど。…ルリさん、渇きそうです?」
マクベス 「…赤髪の。そこまで気を遣わなくても良い」
マクベス 「…聞いているのだろう?弟から、色々と…な」
ルリ 「聞いてるにきまってるでしょう!!」

それはもう修羅の形相で、怒鳴るようにして振り返る。
そんなルリを、イオリが頭を撫でて宥めているが…

シャムシール 「oO(ひゃー…)」
マクベス 「……それならば、尽くされる理由は無いと此方も判っている。」
マクベス 「…無理をして、憎い相手に尽くすこともあるまいよ」
ルリ 「……憎いのか、嫌いなのか、そうなんだと思う、んですけど」
ルリ 「…………でもあなたは、ロミオが出ていった直接の原因じゃなくて」
ルリ 「……クロエさんが、大事に……あんなに、大事に、してる、ひとで」
ルリ 「…………大体、ずぶ濡れの人をほっとくほど冷血じゃないです。あなたと違ってっ」
ルリ 「……ばかなこと、してるなって、自分でも思いますよ。もう……」
マクベス 「…ほう。言ってくれる…」
マクベス 「…成程。愚弟には些か勿体ないかもしれん」
マクベス 「…面白い娘だな。」
ルリ 「勿体ないも何も私はロミオの妻です!!」
ルリ 「……」
ルリ 「…………」
シャムシール 「あぁー兄弟ってやっぱ好みが似るんですかねぇ…(しみじみ)」
イオリ 「ふふふっ」

マクベス 「…さて」
マクベス 「世話焼きついでに、力を貸して貰おうか…」
マクベス 「デカいのを片付け、クロエ達と合流する…」
マクベス 「何か話したければ、その後で聞こう。」
イオリ 「ええ、そうしましょうかー」
シャムシール 「そうですね。…マリンさんも心配ですし。」
マクベス 「…問題なければ、先へ進むぞ。」
ルリ 「……こちらも奥に用がありますし。力を貸すとかそういうのじゃないですからね」
ルリ 「いいですね!」
イオリ 「ふふ、そうだねー」

マクベス 「……あれはいつもああなのか?」
シャムシール 「いーえ、いつもとは全然違いますね。」
イオリ 「自分で確かめたらいいんじゃないかしらー?」

ずかずかと先を歩くルリを指し、マクベスが声を潜めて2人に問う。
それに、2人が小さな笑みと共に返して。

―森林エリア最奥。
3体のロックベアが、4人の前に立ちはだかった。




ロックベアの最後の1体が力尽き、その場に倒れ伏す。
ルリなどは鬱憤を晴らすかのようにブーツで蹴り倒していたが…

マクベス 「…なるほど。流石の腕前だな…」
イオリ 「えっと、装置をここに置くんだったっけー?」
ルリ 「……うん。この辺でいいのかな……」

ルリが機器をその場に設置し、各員が稼動を確かめる。
シャムシールが端末で生体反応の確認をしつつ、さり気ない様子で記録を始めたのは誰も気付いていない様子だったが…

ルリ 「……よし、と」
イオリ 「これで・・・いいのかな?」
ルリ 「たぶん、大丈夫。元気そうだし……」
シャムシール 「……へぇーこれでいいんですか…。」
ルリ 「ほら。ういーんって」
マクベス 「……大雑把だな」
シャムシール 「おおー、いいこにしてるもんですね。」
ルリ 「……いいんです大雑把で」
マクベス 「…そういうものか。」
イオリ 「大丈夫ならマリンたちのところに戻ろうかー」
ルリ 「……ほら、合流するんでしょう!」
マクベス 「では、戻ろう。」
シャムシール 「はーい!」
マクベス 「さて…」
イオリ 「oO(マリン・・・)」

やや早足で、一同は来た道を引き返し始める。
その道中、マクベスがぽつりと口を開いた。

マクベス 「…セラフィナの…いや、マリン、と言ったか…」
マクベス 「…どんな娘だ?」
ルリ 「……」
ルリ 「かわいい」
イオリ 「自分で確かめてみたらいいじゃないですかー」
シャムシール 「美人ですよねー」
マクベス 「そうもいかん」
イオリ 「どうして?」
ルリ 「…………」
マクベス 「ディヴェローナの者が、セラフィナにした仕打ちを考えるとな」
マクベス 「…娘である、マリン、が恨みを抱えていたとしても」
マクベス 「…そうおかしい事ではあるまい」
イオリ 「私は詳しい事情は知りませんけどー」
ルリ 「…………」
イオリ 「犯した罪は消えることがありません・・・でも、」
イオリ 「償うことはできる、そう思いますよ?」
マクベス 「…償い」
シャムシール 「……。」

ルリが口を引き結び、シャムシールが黙ったままマクベスに目を向け。
イオリが、諭すように言葉を紡ぐ。

イオリ 「あなたが何をして、それについてどう思ってるのかなんてぜんぜんわからないけど、」
イオリ 「少なくとも、マリンと仲良く・・・まではいかなくても、関わりをもちたいって思ってるように、私には見えますよー?」
マクベス 「償いを…求めているのならば、考えたいが」
マクベス 「……この頭も、気軽に下げられるほど軽い物ではないのだ」
マクベス 「……いずれにせよ、僅かでも彼女の母に世話になったことに変わりはない。」
マクベス 「感謝は、伝えたいものだな…」
ルリ 「……」
イオリ 「ありがとうとごめんなさいは、思ってるだけじゃ伝わりませんもんねー」
シャムシール 「…問題は、マリンさんがどう思ってるか、ですよねぇ…」

そう言って、小さく笑う。 マクベスも自嘲するように微かに笑い。

マクベス 「…ふ。その通りだ…」
ルリ 「……さっさと、合流しましょうっ」

「大切な話」をしているマリンとクロエの元に、4人は急ぐ。
その話の内容など、知る由もないのだが―――


  • 最終更新:2015-06-17 23:46:28

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