C.H.E/02

04.CALLED HATE ENCOUNTER/02

『エトワール……それが、あの男の、なまえ』
告げられた男の名。

ルリが眠るのを見届けると、端末でその名を探す。
それらしい対象はあっさりと見つかり。接触をとる為、メールを送る。
エステルから受け取った「希望」を、エトワールに伝えるために。



数時間後。
C隊チームルームの外れで、町並みを見下すように佇む男がいた。


エトワール 「…………嫌ぁな、風だ」
ロミオ   「・・・・・・来て、くれたんだな・・・・・・「エトワール」」
エトワール 「…………」


不意に名を呼ばれ、ゆっくりと肩ごしにロミオを見やるエトワール。
ロミオも口を噤んだまま、その背に警戒の視線を送りつつ。


エトワール 「……名乗った覚えはねぇが……。……ふん、どっかで追われたか」
エトワール 「ガキに尻尾掴まれてるようじゃ、俺もヤキがまわったな」
ロミオ   「・・・・・・ルリ、が」


エトワールがその名に反応するかのように、ぎらりと眼光を光らせる。


ロミオ   「・・・・・・あんたのいう、ルミリエラ・・・が、教えてくれた」
エトワール 「…………猿真似だけはできるか、あれも」
ロミオ   「・・・・・・」
ロミオ   「・・・・・・あんたの侮辱も、目を瞑ろう・・・今は」
ロミオ   「・・・・・・話したいことが、ある」
エトワール 「…………ふん(鼻を鳴らし、夜景へと視線を戻す)……こないだの続きの話か」


銃を叩き、笑うその顔は、獰猛な鮫のようで。


ロミオ   「・・・・・・違う。・・・今日は、争う気はないんだ」
エトワール 「ならちんたらしてねぇでとっとと話せよ」
ロミオ   「・・・・・・ッ・・・。わかっ、た」
ロミオ   「・・・・・・あんたの、その・・・ルミリエラ、に、斬られた妹の名は・・・・」
ロミオ   「・・・・・・「エステル」・・・で、合ってるか?」


エトワールからの返答の代わり。ぞっとするような殺意のこもった視線で、ロミオを貫く。
想像以上の反応に静かに息を飲むが、諭すようなしっかりとした口調でロミオは続ける。


エトワール 「……何故、テメェが」
エトワール 「…………いや。上の連中に買われてんだ。「商品名」としちゃ残ってっかもな」
ロミオ   「・・・・・・その。アンタには、とても信じられない話かもしれないが・・・」
エトワール 「…………」
ロミオ   「・・・・・・俺は、エステルに直接、話を聞かせてもらったんだ」
ロミオ   「・・・・・・あんたの知ってるエステルとは、少し様子が違うかもしれない、けど・・・・・・彼女は、生きてるんだ。」


憤怒と殺意。綯交ぜの感情がエトワールの双眸に灯る。


エトワール 「………与太話に付き合う義理はねぇぞ、ガキ」
ロミオ   「・・・冗談で、アンタをわざわざ呼び出すわけないだろ・・・・・・」
ロミオ   「エステルは・・・・・・今も生きて。ルリと一緒にいる」
ロミオ   「・・・・・・恨みなんて、一切ないと。・・・・・・全部自分が望んだことだって・・・笑顔で、応えてくれた」
ロミオ   「・・・・・・アンタが、ルリに危害を加えないと約束するなら・・・・・・彼女に、会わせられるように・・・力を貸すよ」


言い終わると、希望を込めた視線をエトワールに向ける。
不意に訪れる沈黙。奇妙なほどに凪いだ静寂。


エトワール 「…………くっ、く……」
エトワール 「は、……ははっ、はははははは!!」


エトワールの「牙」の間から溢れる、嘲るような乾いた笑い。


エトワール 「…………ぬりぃ夢物語でどうにかなると思ったか」
ロミオ   「・・・・・・そんな事じゃないんだ、エトワール」
ロミオ   「・・・・・・一度会ってみれば、分かり合えるかもしれないじゃないか・・・」
エトワール 「分かり合える?」
エトワール 「……腑抜けてんじゃねえ!!」
ロミオ   「・・・・・・っ!・・・」
エトワール 「誰にそう言うように言われた? ……誰? いや。何に、命令された?」
エトワール 「あの化け物が、テメェに俺を飼い慣らせと頼んだか!」
ロミオ   「・・・・・・違う!・・・俺はただ、俺の知ったことで、ルリの負担を減らせるなら・・・・・・そう、思って・・・」
エトワール 「それとも俺の記憶が間違いか。あの時死んだのは、エステルじゃねぇと」
エトワール 「どうやって死人が生き返る?何故よりにもよってお前に、それを告げる?」
ロミオ   「・・・・・・都合のいい話だってのは、とても信じられないっていうのは分かる・・・」
エトワール 「分かってんならこれ以上口きくんじゃねぇ!」
ロミオ   「・・・・・・でも、今そうやって生きているっていう事実を受け止めて・・・・・・大人しく、逢ってみるわけにはいかないか・・・?」
エトワール 「大人しく…………的が目の前にいるってのに、銃を退けるか?」
ロミオ   「・・・・・・お前、は・・・」
エトワール 「……いいぜ、よしんばテメェのかわいらしい話が真実だったとして」


頑ななエトワールの心は、ロミオのもたらした希望を受け取らず悉く踏み躙る。
そして紡がれる、決定的な言葉。


エトワール 「……それがどうした?」
ロミオ   「・・・・・・それが・・・・だと・・・?」
エトワール 「俺が、あの化物を、殺すと誓ったんだ。……他の誰でもねぇ俺が!」
ロミオ   「・・・・・・・・・」
エトワール 「……あいつの仇討ちなんて、ぬりぃことは考えてねぇ」
エトワール 「ただこの銃弾が、あの化物の脳天ぶち抜くのを!」
エトワール 「……俺が、望んでんだ。作り物の化け物、ルミリエラの死を」
ロミオ   「・・・・・・彼女は化け物じゃない。ヒトだ」


・・・・・そうか。そういう男か。
ロミオの中で、抱いていた僅かな希望が崩れてゆく。
代わりに頭をもたげたのは、あの時と同じ―――


ロミオ   「・・・・・・言っておく・・・・・・この先尚、ルリの敵として現れるなら」
ロミオ   「・・・どんな手を使っても、殺してやる」
エトワール 「……殺す、か」


エトワールは再びせせら笑うかのように、殺気を孕み始めたロミオを眺める。


エトワール 「……テメェ、まさか「あれ」がただの育成プログラムだと本気で信じてんのか」
エトワール 「あれのカラダのことも知らねぇで、ヒトか?」
ロミオ   「・・・・・・お前が、何を知っていると?」
エトワール 「…………あれに抱き込まれておきながら何も知らねぇのか、それとも盲信でもしてんのか」
エトワール 「……よっぽど、オトコの食い方が上手いみてぇだな」
ロミオ   「・・・・黙れ・・・・・・・・・殺すぞ・・・ここで・・・」
エトワール 「殺してみろよ、ガキ。どうせそんな覚悟もねぇ」
エトワール 「……おそらく今、テメェが知りてぇこともわからなくなる。あれの関係者はあらかた処分されたからな」


重ねられるルリへの侮辱の言葉に、エトワールを睨めつけるロミオ。
心なしか右腕が震えているが、それを抑えるように拳を握る。


ロミオ   「・・・・・・お前が、それを・・・・・・ルリの、更なる秘密を・・・持っていると?」
エトワール 「……だったら、どうする? 武器抜いてでも吐かせるか?」
ロミオ   「・・・・・・そこまでする必要があるのなら・・・・・・抜かざるを得ない」
ロミオ   「・・・・・・どちらにしろ、お前がルリの前に立つのなら・・・いずれはぶつかる事になるだろうしな」


エトワールが、ぎっ、と口角を吊り上げる。
牙を剥く鮫の様な表情で、銃に手をかけ。
それに応えるように、ロミオも背後の二刀に手をかける。・・・が。

瞬間、びくりと右腕が跳ねる。
取り落とした刀が足元に落ち、盛大な音を立て。


ロミオ   「・・・・・・っ、う・・・?」
エトワール 「……?」
ロミオ   「・・・・・・・っ!?・・・これ、は・・・」


ロミオが一度飛び退り距離を取るも、右腕の拍動は治まらない。
その様子にエトワールの眼光が訝しげに動くが、銃を抜く間に視線を研いで。

やはりあの時と同じだ・・・・・・殺意に反応している。


エトワール 「…………つくづく興ざめさせやがる」
ロミオ   「・・・・・・何、を・・・!」
エトワール 「…………テメェも、化物か」
ロミオ   「・・・・・・俺は・・・俺たちは・・・」
エトワール 「化物だ」
ロミオ   「・・・ヒト、だ!」


エトワールの蔑むような言葉をかき消すように叫ぶロミオ。
それとは裏腹に右腕、そしてそれを抑える左手が禍々しい色合いに変色していく。


エトワール 「その腕を晒してもそう言えるか?」
ロミオ   「・・・・・・っ、ぐ・・・・・・」
エトワール 「……は、は。……こりゃいい。泳がせときゃ……おもしれぇかもな」
ロミオ   「・・・・・・な、ん・・・!?」
エトワール 「……コード2270716、アークスプログラム「ルミリエラ」」
エトワール 「……「ルミリエラ」はもともとプログラムの名前だ。対ダーカー用人体兵器であり、ダークスをぶっ殺すための兵器の名」
ロミオ   「・・・・・・っ・・・!」
エトワール 「ウン十人いた他の「素材」のことは知らねぇが。……ラベル名「ルリ」だけが完成までこぎつけた」
エトワール 「……必然的にあれだけが「ルミリエラ」の「作品」になり、そのまま名前がつく」
エトワール 「ヒューマン女児に遺伝子操作を施し、戦闘に必要なモンをありったけぶちこまれた、あれだけが」


両腕の変異に粗く息を吐きつつ、聞き漏らさないように耳を欹て。
エトワールは、ロミオを見下したまま情報をひけらかす様に語り続けている。
明らかにすることにより、ロミオをさらに苦しめてやろうとするかのように。


エトワール 「ダーカー及びダークスからの攻撃に備えた体と、奴らを屠るために体内に多分の光フォトンを含む」
エトワール 「デタラメに戦闘特化された体は、戦いに必要な最低限の生命維持活動しか持たず」
エトワール 「故に、「使用可能期限」は、短い」
ロミオ   「・・・・・・使用、可能・・・期限?」


エトワールの、愉悦を含んだ嬉しそうな声。


エトワール 「……人間でいう、「寿命」」
エトワール 「お偉いさん方のめんどくせぇ理論なんざアテにならねぇと思ってたが・・・・・・」
エトワール 「……ガタ、きてんだろ?」
ロミオ   「・・・ぐ、ぅう・・・!」


ロミオの脳裏に浮かぶのは、ここ数日具合悪そうに部屋で横になっているルリの姿。
予想通りの応えに歯噛みしながらも、自身を奮い立たせるように、ゆっくり立ち上がる。


ロミオ   「・・・・・・それ、なら・・・・・・尚更、放っておけ・・・!!」
エトワール 「馬鹿言うんじゃねぇよ・・・・・・だからさっさと殺すんじゃねぇか」
ロミオ   「・・・・・・もし本当に、残された時間が短いなら・・・俺がヒトとして、生かしてやる・・・!」
ロミオ   「・・・・その邪魔を、するなら・・・!!」
エトワール 「満足に動けねぇやつが囀ってんじゃねぇよ」


変容が済みつつある。
ロミオの両腕は今や、外骨格に包まれた、異様な形状に。


エトワール 「……せいぜい、守ってやったらどうだ。その化物の腕で」
エトワール 「化物のまま、作り物のまま、死んでいくあれをな」
ロミオ   「・・・・・・俺が化け物になってでも・・・・・・ルリは、ヒトのままで居させてやる」
エトワール 「……テメェが、あれに「処分」されなきゃな」


未だ満足に動けないままのロミオを鼻で笑うと、ゆっくりと歩を進めていくエトワール。
後を追おうとするも、やはり膝から崩れ落ち倒れ伏すロミオ。


エトワール 「は、ははははっ」
ロミオ   「・・・・・・ふ、ぅう・・・!ま、・・・て・・・」
ロミオ   「・・・・・・絶対に・・・」


エトワールの去り際の、嬉しそうな高笑いが頭に響く。

呟きに「守る」の言葉が続かなかった。

守れるのか、この殺意で形成された化物の腕で。
守るどころか、ルリにとって害悪にしかならないのではないのか。

一人残され、異形の爪で、自らを掻き抱くように蹲る。


ロミオ   「・・・・・・う、ぅ・・・」
ロミオ   「・・・・・・うで、ぼくの・・・うで・・・」
ロミオ   「・・・・・・こわいよ・・・たすけて・・・・・・」
ロミオ   「・・・・・・るり・・・・・・るり・・・!」


  • 最終更新:2014-06-09 21:11:31

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