Atrocious Raid

「なぁ、おれとあそばないか?」

俯いていた車椅子の少女が顔を上げると、手をこちらに差し出す自分と同じくらいの年齢の少年の姿があった。
家族の目を盗んで一人来ていたらしい少女と、それを不思議に思い、一緒に遊んでいた友人達から離れ声をかけた少年。
同じ5~6歳ほどの二人は、そうして居住区の外れで出会った。

「ねぇ、もっと早くおしてよ」
「車椅子でスピードだしたらあぶないだろ…」

会う約束をしたわけでもなく、出会った場所で少女が待っていて、少年がそこに来て声をかける。
互いに名前も聞かないまま、そんな日々が2ヶ月ほど続いた。

「おれ、妹がいてさ。にいちゃんは妹をまもらないといけないから、とうさんみたいにすごいアークスになるんだ」
「ふーん…… じゃあアークスになるまえに、牛乳がのめるようになったほうが良いんじゃないかしら」
「……すききらいはかんけいないだろ!」

口には出さないが、車椅子の少女にとっては、少年とここで会うことが唯一の楽しみだったのだろう。
小雨が降っても、そこで待っていた日もあった。


――――――――――――――――――――――――――――――――


その日の遊び場は、いつもより少し町から離れた場所だった。

「なあなあ、おれにもアークスのこと、おしえてくれよ」
「歩けもしないわたしが、そんなにくわしいことしってるわけないでしょ?」
「でも、すごいフォトンのさいのう… っていうの、もってるんだろ?
 からださえじょうぶなら、ろくぼうきんこう? にだってなれるかもって、おばさんいってたじゃんか」

生まれつき病弱な体ながら、非常に高いフォトン適正を持つ。
以前彼女を迎えに来た母親から聞いた話だが、幼い少年はよく理解できていなかった。

「……からだがうごかなかったら、意味ない。 どんなにすごい力をもっていても、かざりものじゃない」
「…………」

少女は暗い顔で俯いてしまう。
が、少年が何も言えずに黙ったのを見ると、彼女は顔を上げて言った。

「なにあなたが落ちこんでるのよ。 だいじょうぶよ、こんな体とはさよならするもの」
「……え? どういうこと?」
「そういうひとはね、キャストにしてもらえるの。キャストになれば、がんじょうな体になれる。
 こうしてあなたに車椅子をおしてもらわなくてすむ。あなたをまもってあげることだってできるのよ!」
「……きみが…… キャストに?」

普段あまり笑わない彼女が、心底嬉しそうな表情で言った。
目の前で微笑むヒューマンの少女が、キャストに… それは少年にはいまいち想像ができなくて。
ただそれは何故か、なんとなく、寂しいことである気がした。

「…キャストに、なりたい?」
「え? あたりまえじゃない。 あなたはわたしにじょうぶになってほしくないの?」
「…そんなことは… …でも、体がよくなったら、わざわざキャストにならなくてもすむんだろ?」
「それはそうだけど……むりよ。 生まれてから、ずっとなんだもの」

キャストになったら、長めの鮮やかな赤い髪も、こちらを見上げてくる深い緋の瞳も、変わってしまうのかもしれない。
そうなるより、体を治して健康になってほしいと、どうしてかはわからないが少年は思った。
そこで思い出すと、持っていた花を少女に手渡す。

「……え?」
「近所のおばさんのてつだいでもらったんだ。 これ、あげる。だから、手術? とか、うけてみようよ」

珍しい色のチューリップ。 少年が少女に贈った、初めてのプレゼントだった。
受け取ったまま呆然としていた少女は、暫くしてふっ、と吹き出しながら、

「…おんなのこへのプレゼントに、黒い花なんて… もっとべんきょうしたほうがいいんじゃない?」
「……え? え?」
「あははっ、これじゃ妹をまもるナイトさまにはとおいわね」
「…む、むむむ……」
「なりたいんだったら、まずはおんなのこに優しい「しんし」にならないとね」

花を受け取りながら、腹を抱えて笑う少女。
手元のチューリップをしばらく眺めると、むくれてしまった少年にもう一度口を開く。

「……ま、わたしはきらいじゃないわよ、黒い花」
「………え」
「もらってあげる。 ちょっとはかんがえてみるわ、体なおすのも」
「…そ、そっか。 それなら、いいけど」

2人で笑って、少年が少女の車椅子を押す。
手術が上手くいって、この関係も変わらないまま、もっともっと一緒に遊ぶ機会が増えれば良い――――


そう思った、時だった。


激しい爆発音。 2人の、遥か後方から響いた。

「うわっ!?」
「きゃっ…!?」

見ると、市街地が煙を上げている。
――その方角は、少年の自宅がある辺りだ。

「……リグレット……!」

少年の血の気が引いていく。
少女も呆然としていたが、いち早く我に返って叫んだ。

「なにぼーっとしてるの、わたしはいいからはやく… ……っ!?」

言い終えるが早いか、2人の目の前の空間が赤く歪む。
現れた黒い影は、2人にとって悪夢そのものの形をしていた。

「だ、ダーカー……っ!」

幼い2人に為す術などあるはずもない、黒い殺戮者。
先程の爆発もダーカーの襲撃によるものだろう。 少年の家族も襲われているかもしれない。

――――もっともその前に、少女の車椅子を押しながら目の前の敵から逃げ切ることなど、不可能だろうが。


「……行って」
「…え?」

当の少女は、不自然なほど落ち着いていた。 まるでいつもと変わらない調子で言葉を続ける。

「アイツはそんなに足のはやいタイプじゃない。 あなただけで全力ではしればにげきれる。 だから、はやく行って」
「…な、なにいってん、だよ…!きみは、どうするんだよ… にげれない、しんじゃう、じゃないか…!」
「いいからはやくいきなさいッ! あなた、わたしより年下でしょ? 年下は、年上のいうことをきくものよ」
「だ、だめだっ! おんなのこにはやさしくしろって、さっきいったばかりじゃないか…!
 おいていけない… せっかくともだちになれたのに! また1人になるつもりかよっ!」

少年も負けじと叫び返して、少女の表情が揺らぐ。
だが時間がない。 病弱な身体から力を振り絞るように、必死の大声でまた叫ぶ。

「…妹をまもるんじゃなかったの!? いいおにいちゃんになるんじゃなかったのッ!?
 いまいってあげないで、なにがおにいちゃんなのよ! …わたしはだいじょうぶ。いいから行って」
「……で、も……っ!」
「…はやくいけえぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「……っ…………!!」


少女の怒声に押されるように。
少年は、ようやく。
ゆっくりと、背中を向ける。


「……ぜったいに、もどってくる」

一言だけ、表情を見せずに告げた言葉は、驚くほど感情のない声だった。
そのまま振り返らず、少年は全力で駆ける。少女に背を向けて、最後まで名前も知らないまま。


「ははっ……ばかね。 あなた1人がかえってきても、どうにもならないでしょ……」

残された少女は、掠れ、震えた声を微かに漏らす。
少年の前では強がっていながらも、幼い少女。 恐怖で呼吸が詰まりそうだった。
ゆっくりと近づいてくる目の前の「死」に対して、貰ったばかりの黒い花を両手できつく握る。

「………っは、……ぁ…………っ!!」

ダーカーの鎌のような腕が、少女の細く小さな身体を貫く。
形容できないほどの激痛が全身に走り、声にならない悲鳴が空しく、血と共に口から漏れた。
車椅子は無残に転がり、少女は地に放られる。

「……行かせ、ないっ……!!」

地面を大量の血で染めながら、少女はほぼ気力だけで、少年が逃げた方向に進もうとするダーカーにしがみつく。
唯一辛うじて動かせる腕だけで、追撃を止めようと必死の形相で。

ダーカーは邪魔だと言わんばかりに、もう一度少女の身体を貫いた。

「…………っ、ぁ…………」


腕は絶対に離さない。 だが、意識は徐々に遠ざかっていく。
自分はここで死ぬのだろうか?



――――なにが力だ、なにが才能だ!
けっきょく、なんの役にもたたなかった! さいごまで、なんの意味もなかった!
友達のひとりもたすけられない力なんて、身体なんて、わたしはほしくなんてなかった!!

からだがうごけば、こいつらとたたかえるのに。
たたかうことができれば、こいつら全部けしさってやるのに!
それができる力が、わたしにあるのに!!


……わたしはまだ、死にたくない。



わたしは、戦いたい………!!






To Be Continued...


  • 最終更新:2015-06-17 23:51:37

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