包み込む翼

ヴェネダレッタ邸。
チームシップにウェインが現れ、エトワール、フレイ、ロミオが自らのコピーと戦闘を繰り広げた翌日。

日を跨ぐ事後処理を終え、疲れ果てた様子のロミオが、その自宅に戻る。


ロミオ  「ただいま……」
ルリ   「あ、おかえり……」
ルリ   「……ロミオ?」

寝室から顔を出したルリに、疲れの隠せない顔で微笑みを返すロミオ。
それを見たルリは、そっと腕を引き部屋へ促す。

ルリ   「……ロミオ」

何も言わず、ロミオはそれにとぼとぼと足を従わせる。
部屋の中に入ると、ルリはロミオを深く椅子に座らせた。

ルリ   「……ミルクティー、いれてあるの。持ってくるね」
ロミオ  「……うん」
ロミオ  「……は……」

ルリがキッチンから持ち出した、丸く愛らしいポットから、マグカップにミルクティーが注がれる。

ロミオ  「……ありがと、ルリ」
ルリ   「ううん……」

ルリ   「……どうしたの。……お仕事……じゃ、ない、んでしょ」
ロミオ  「……い、や……」

マグカップを両手で持ったままのロミオの様子を見て、ルリは微かに微笑みかける。

ルリ   「…………ふふ。もう少し、落ち着いてからにしよっか」
ロミオ  「……ごめん、ルリ」
ルリ   「いいの。……あったかいうちに、飲んで……」
ロミオ  「……」
ルリ   「……」

少しずつ、ちびちびとミルクティーを飲むロミオは、口を離す度に小さな溜息を吐く。
ルリは自らのカップにミルクティーを注ぎながら、ロミオの袖の破れた右腕を見つめていた。

ロミオ  「……あ。あぁ…これか。修繕に出さなきゃ…」
ルリ   「……だね」

視線に気付いたロミオが苦笑すれば、ルリが小さな笑みで返す。
ルリは一つ口にしたカップを置くと、両手を差し伸べて、右手を出すよう催促した。

ロミオ  「……」
ルリ   「……上手に、使えるようになっちゃったね」
ロミオ  「……上手に、どころか……」
ロミオ  「……無意識、だった…」

指を絡め合う二人。過去の傷跡が一つ残るロミオの腕を、ルリが撫でる。
重ねた手を見下ろしながら、ロミオが一つ一つ吐き出すように、ぽつ、ぽつと話し始める。

ルリ   「……」
ロミオ  「……戦う事以外に、何が出来るのか考えていたつもりだった……」
ルリ   「……方法、見つかりそう?」
ロミオ  「……ダメだったんだ。出来れば、あいつともう争いたくない…そう考えていたのに」
ルリ   「……うん」
ロミオ  「……あいつ……」

小さな息を吐いて、ルリを見つめるロミオ。深い緑青の瞳が、愛情を湛えてそれに応える。

ロミオ  「……ルリ。偽メイリーンの件……」
ルリ   「うん」
ロミオ  「……あの件に、レンが絡んでる。偽物を造り上げたのは、多分あいつだ…」
ルリ   「…………レンさんが?」
ロミオ  「ああ……どういう理屈か判らないけど、僕は昨日、奴の作り上げた僕と戦った」
ロミオ  「……マリンさんの身柄を要求されたよ。それが皆の為になるって……」

ぴく、とルリの指が動く。

ロミオ  「……フレイの兄貴も一緒だったから、いずれ他のメンバーにも今回の事は伝わるだろうけど……」
ロミオ  「詳しい事は何も話してくれなかった……ただ……」
ルリ   「……ただ?」

ロミオ  「彼女を引き渡すつもりが無ければ、僕達は争わなければならないって……」
ルリ   「……」

その言葉を聞いたロミオの心中が、どんなものだったか。
ただ労わるように、ルリがその手を強く握る。

ロミオ  「そうして僕達は、レンの作った分身と戦った」
ロミオ  「どうしても剣が重くて…戦う以外に何か出来ないか…いや、それよりも……」
ロミオ  「……レンと、あの人の事で頭が働かなくて……」
ルリ   「……あのひと?」
ロミオ  「……う、ん…」
ロミオ  「……レンの後ろには……」

ロミオ  「……セラフィナが居る……」

直接会ったことは無いが、その名はルリにとっても知った響きだった。

ルリ   「……!」
ルリ   「……マリンの、おかあさん……? どうして……」
ロミオ  「……判らない。マリンさんの為なら、僕達の前に現れて、力を貸してくれたって良い筈なのに……」
ロミオ  「争うべき理由なんて、判らない……」
ルリ   「…………でも。……争わざるを得ない、理由なら?」
ロミオ  「……あの二人が、マリンさんを奪う様に連れ去る理由……?」
ルリ   「……あるいは……。……そういう手段に、走るしかない、理由」
ルリ   「私たちに、まともな協力を求めることができない、理由」
ロミオ  「本当にマリンさんの為なら、メンバーは理由を聞けばきっと力を貸すはずなんだ……」
ロミオ  「それをよく思わない何者かが……?」

不確かな情報ばかりの中、推察を重ねる二人。
一方、ルリも自らが遭遇した事柄と、その情報を話し始める。

ルリ   「……私、……私と、イフェスティオさんと、シャムシールさん」

ルリ   「おそらく、あの事件の裏にいた男と、接触した」

ロミオ  「……なん…」
ルリ   「でも、……レンさんじゃ、なかった。金髪の、ずっと年上の……そのひとは、スコールって名乗って」
ルリ   「……人に雇われてる、でもある程度本人の自由に動いてるみたいだった。……ゲームや試合をする、みたいに」
ロミオ  「……スコール…」
ルリ   「……その男、も……うん。やっぱり、マリンが目的、みたいだから……」

ルリ   「……マリンを、水の足りない器に、例えてた」
ロミオ  「水の…足りない?」

何度か口をつけて、ミルクティーの減った目の前のマグカップを、その喩えに重ねるように見下ろす。

ルリ   「……器から、水が漏れてもいけないし。器に水が足りなすぎるのもいけない」
ルリ   「たぶん、水はフォトン、で。……器は、マリン」
ロミオ  「……何を知ってるんだ、そいつは……」
ロミオ  「……そいつに会ったら、八つ当たりしそうだ」
ルリ   「……ふふふ ……もし。……スコールとレンさんが、関係していたのなら……」
ルリ   「……まだ、会う機会はあるかもね」

レン―――ウェインの言葉から判断すれば、少なくとも無関係では無いだろう。
ルリが言葉を続ける。

ルリ   「……スコールは、ヒントになるかもって。ある場所にも連れていかれた」

ロミオ  「……ヒント?…本当に、ゲームの感覚なんだな……」
ルリ   「あのひと、すきじゃない」

苛立ちに、眉間の皺を寄せるロミオ。それに釣られるように、ルリが小さく頬を膨らませた。

ルリ   「……ダーカー襲撃で廃墟になっちゃった、街。たくさんのアークスも亡くなった、って場所で……機械が、あって」
ルリ   「……たぶん……なんだけど。その機械は、亡くなったアークスから、離れていった体内フォトンを……集められるんだと思う」
ルリ   「……人型の、フォトン体と戦った。幽霊みたいだった……」
ルリ   「……でも、スコールは機械の調整には関わってないみたいで。偶然だと言ってたけど……」
ロミオ  「遺体の残留フォトンを……?」
ルリ   「……それが本当に、……ヒントとして、捉えてもいいなら……」
ロミオ  「……そんなものを作りだす事の出来る、更なる黒幕が居るのか…?」
ルリ   「…………

不安に眉を顰めるロミオの手を、ルリが優しく握る。

ロミオ  「……ルリ…」
ルリ   「……戦うことが、必要なら……私が頑張る」
ルリ   「でも、ロミオには……まだ、できること。……考えられること、ある、と思う」
ルリ   「…………大丈夫。……私たちも、きっと、レンさんも……マリンが大事なことに、かわりないんだから」
ロミオ  「……うん…うん……」
ルリ   「……まずは、調べることがいっぱい、だね」
ロミオ  「……そうだな。何処から手を付けるか…まずは情報の共有が先か……」

ロミオ  「……っと。今日の所は…これ位にしたいな…」
ルリ   「ふふ。うん……」
ルリ   「働きすぎも、だめだから……」
ルリ   「……忙しくなる前に。……今は、私とゆっくり、して?」
ロミオ  「……うん。癒されたい…」
ロミオ  「……ふう…」

残っていたミルクティーで喉を潤し、ほっと息を吐く。
微笑みを交わす、二人だけの空間。

ルリ   「ふふ。少し……夜ご飯まで、一緒に寝よっか」
ロミオ  「……昼寝?じゃ、せめて着替えてくる…」
ルリ   「うんっ」

長いポニーテールを揺らし、タンスに駆け寄ると、ロミオの部屋着を取り出し戻ってくる。

ルリ   「洗濯したてなの。……そろそろ、冷えるから」
ロミオ  「ん……ありがと、ルリ…」
ロミオ  「着替えついでに、修繕に送ってくるから…ちょっと待ってて」
ルリ   「うん ……お布団で待ってる」
ロミオ  「……うん」

部屋着を渡すと同時に、唇でそっとロミオの前髪を撫で、囁くルリ。
受け取ったロミオは一度室外に出る。

残ったルリは、なんとなしにシーツの皺を伸ばし、毛布を払っている。
そこに、戻ってきたロミオが押し倒すような形で、ベッドの上で抱き寄せて横になる。

ロミオ  「るーりーー」
ルリ   「ひゃーっ」
ロミオ  「ふふ……」

お互いに至近距離で微笑み合いながら、より強く抱き寄せる。

ルリ   「…………あったかい?」
ロミオ  「……あったかいよ。落ち付いた……」

体温を閉じ込めるように、毛布を引っ張り肩までを覆って。

ルリ   「……ご飯、何にしようか……ハーブに浸けたお肉もあるし、お魚のムニエルもできるよ」
ロミオ  「ムニエル……いいね。美味そうだ……」
ルリ   「じゃあ、ムニエルにしようかな。……タルタルソースも要る?」
ロミオ  「…たるたる……ふふ……」

甘えるように、お互いの身が寄り添う。
そして、ロミオの笑顔にルリが唇を寄せると、二人の唇はどちらからともなく重なる。

ゆっくりと離れた唇を愛しげに撫でて。
いつの間にか、ロミオの吐息は深く、瞼は重そうに下がっていた。

ルリ   「……ロミオの目が覚める頃には、ね……お魚がよく焼けた匂いが、するから……」
ルリ   「……ゆっくり休んで、いっぱい食べてね。……大丈夫。私も、そばにいるから……」
ロミオ  「……ルリ…ありがと……ルリ……」
ルリ   「…………おやすみ、ロミオ。大丈夫……」

やがて眠りを深くしていくロミオの背を撫でると、自らもうっとりと瞼を落として。
悲壮な表情をするでもなく、ただ愛しい、その寝顔に語りかける。

ルリ   「……ロミオができないことは……私がやるからね」
ロミオ  「く……すぅ………」

だから、今は。

ルリ   「……おやすみ……」

  • 最終更新:2016-11-13 21:04:29

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