乙女座α星

明転。

少女が一人、通信越しに何かを話している。
距離が遠いのか、若干のノイズが混じっている。

「まさかあんなところで襲われるとは思っていませんでしたから。大変でした」
「……そのあとは、大丈夫だった?」
「ええ。親切な方が助けて下さって」
「親切な方?」
「背の高い男の方でしたわ。物言いは乱暴でしたけれど、ああ私を逃がしてくれる気なんだなと」
「一人?」
「お一人でございました。なので流石に私も危ないと思ったのですが」
「…………」
「ものすごいお顔でこちらを睨むものですから。【仮面】よりも余程恐ろしゅうございました」
「……そう……」
「せめて、お名前をお聞きしたかったのですが」
「……顔だけでも分かれば、まだ探せるかもしれない」
「お顔立ちですか」
「何か、特徴とか……」
「そうですね……」
「…………」
「黒い御髪に、鼻筋の通った……彫刻のように整ったお顔だったのですけど……」
「…………」
「……そう、目の。目の色が」
「目?」
「緑でもなく青でもない、不思議な色でございました」

通信機越しに物音。

「あら? ルリさん?」
「…………いや」
「……?」
「……その……」
「うふふ、変なルリさんですね」
「……ん。ごめん」
「ああ、でも。何故でしょうね。きっと二つとない、不思議な色だったのですけど」
「……?」
「とても懐かしい色でございました。どこかでその眼差しに会っているような心地がして」
「…………」
「温かいような、切ないような……でもきっとそれだけ魅力的な殿方だったのですね」
「…………」
「ロマンチックではございませんか。会ったことがあるのではないかと思った殿方が実は……というか」
「……うん」
「……? ルリさん?」
「……ううん。聞いてるよ。聞いてる」

溶暗。
同時に会話する声が小さくなっていく。

暗闇の中で画面が明滅する。
次の文字が羅列されていく。

海蛇座α星。アルファード。「孤独」。
おおぐま座80番星。アルコル。「死兆星」。
乙女座α星。スピカ。「幸運」。

やがてそれらの文字が徐々に後ろから消える。
画面が暗くなる。

幕。

  • 最終更新:2014-06-09 18:05:47

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード