おおぐま座80番星

死に損ない続けた。

採掘基地を襲う巨大な蟲系ダーカーも。
突如現れた時の番人も。
あの、【巨躯】と名高いダークファルスでさえ、この心臓に届かない。

どうせなら日常の隣り合わせの戦場で。
ただ遠くの出来事のように、ニュースの一角に連ねられる戦死者の一人として。
何気ない一つの実感なき悲劇として消えようと思っているのに。
それが今の自分には、全く正しい終わり方。

愛する心も、憎むものも。
全てを捨て置き、そして全てに手を離された。
自由は穏やかに永い無だ。

虚空色の瞳が、忌々しげに、眩げに、揺れる木漏れ日を睨め上げる。

あの日と、同じだ。
皮肉なほどに、青い空。
ぽかんと口を開けたような蒼穹は、まるで何も考えていないようで。
惑星ナベリウス、森林エリア。

少女の悲鳴が遠くに聞こえたのは、光に耐えかねてその瞼を落としたその時である。

反射でひらりと身を起こす。
フォトン反応。
強大なダーカーの気配。

あの声は。

土を蹴って走り出した。
痛いほどに跳ねる心臓を抑えながら、破れそうな肺を、軋む記憶を抱きながら。
重なっていく。
森林。
市街地。
後方へと飛んでいく景色。
あの時に聞いた声。
何を探して、何を求めて。

助けて、やりたくて。
その名前は。

桜色が飛び込んできた。
それは、ヒトならざるヒト。小柄すぎる少女の髪の色。
果敢に長杖を向けるその先には、黒い影。

死を纏う大剣を振り上げる。
ダークファルス【仮面】。

「おおおおおおおおッ!!」

咆哮と共に双機銃を構え、銃弾を大剣に撃ち当てた。
僅か、狂う太刀筋。
見えざる殺意の視線が、銃弾の主を貫いた。

同時に桜色の髪の少女が。
確かに、こちらを捉えて。

「……あなたは……?」

その、虚空色の双眸を細めた。

綺麗な服を着ていた。
美しい髪はきちんと結われ。

面影を見ていた。
瓜二つの、その少女に。
あの時に助けてやれなかった誰かに。
殺してやれなかった誰かに。

「足手まといはさっさと行け」

冷たい声音に、少女はびくりと肩を竦ませ。
それでも尚何かを言いかけるのを、鋭く睨むことで黙らせる。
その、小さな、本当に小さな背中がテレパイプまで駆けていくのを見送って。

迫る凶刃に気付きながらも、その姿を眺め続けた。

自己満足だった。
求めてはいけない救いだった。
許されてはいけない感傷だった。

時を巻き戻し、望みを巻き戻し、それを叶えたかのような。
ただの、錯覚。

それでも。

「エステル」

愛しげな。
苦々しげな。
泣いているような。
笑っているような。
それが間違いで。
それを分かっていて。
それでも尚間違い続けて。
最期まで。

囁いた名前は届くことなく虚空に消え。

肉を裂く音。
血飛沫。

  • 最終更新:2014-06-09 18:05:08

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