氷と炎

怒り狂った獣の唸りが木々の間に響く。それから、爪が閃く風切り音、それを上回る、熱鉄が振り抜かれる音。
獣――――ファング・バンサーの連撃を、炎を灯した大剣で受け止め、弾き、受け流して。長い時間そうしていたせいで、赤い髪の合間から、額を流れ落ちていく汗は、少ないとは言えない。それでも、彼の表情から疲労は窺えない。

フレイ  ………

そしてそのまま、剣を振り抜く。獣の叫びが響き、そして、森林は『何度めかの』静けさを取り戻した。

爪と刃がかち合う震動は、音と風として、その一帯に渡っていたようだった。
異様とも言えるフォトンの流れの先を、長い睫毛と鋭い瞳孔が見つめている。白いリボンの尾を揺らして、音もなく、そうっと物陰からマイカは覗く。

フレイ  (がしゃんと音を立て、機構によって閉じたソードをくるくると回し、地面に刺すように立てると、ついと金の眼が周囲を見渡して)
フレイ  ………誰かいるだろう? (少しの間うろうろと、木々の間を彷徨っていた視線が、ぴたりとひとつの物陰を捉える)
マイカ  (ぴ、と反射的に頭を引っ込めたが、すぐまた顔を覗かせて、ぱたぱた瞬きをする。そこにいる人物が、)
マイカ  (本当に自分の記憶どおりの男かと、疑うように)
フレイ  ……(ちらりと覗いた木苺色の猫目と目が合い、小さく笑って)……マイカだったか。やっぱりまだ無理だな
フレイ  (やれやれと溜息をつくと、顎を伝って落ちていく汗を雑に拭って)
マイカ  ……無理って、何が? (その笑みに納得したのか、草と土を踏みながら歩み寄り。じろじろと倒れ伏した獣を観察する)
フレイ  んー……(なにげなく、マイカと共に視線をファング・バンサーの死骸に向けながら)フォトンの感知の話さ
フレイ  マイカたちみたいに……細かいところまで察知はできないからな、俺は。……悩みどころだなあ
マイカ  …… (怪訝そうな顔で、なお汗の引かないフレイの顔を見上げ) 何かに要るの
フレイ  うん。……(手を握ったり開いたり。金色の瞳は、はっきりと強く、何かを視ている)次は負けられないんでね
マイカ  ふぅん (気の無さそうに声を漏らすと、首を傾げて) その無駄にでかくて頑丈なだけじゃ、だめなの
フレイ  んー……(手を剣の柄に乗せ、目元をやわらげて苦笑し)そこが悩みなんだよ。長所を伸ばすか、短所を補うか…
フレイ  相手は本気で強い。生半可なことじゃあ勝てないだろうな……かといって、ちんたら鍛えてる猶予も、またの機会もない。
フレイ  とりあえず、やるだけやってみようってことで……速さに対応する練習をしてたんだけどな(親指で死骸を示して)
マイカ  ……。……それでこんなにうるさかったの? 迷惑ねあんた (さっぱり言い切ると、怪訝な顔のまま腕を組み)
マイカ  ……そりゃあ、頑丈で、見えて、反応できるなら、越したことはないけど。何とやり合う気なのよ、そんなの
フレイ  うーん……(眉間に皺を寄せて)……悪趣味なバケモノ男……かな
フレイ  頑丈さなら勝てるんだろうが……向こうの攻撃力もハンパじゃないからな。耐えてるだけじゃジリ貧だし………
フレイ  全方位あらゆる角度からほぼ予兆ナシで自由に飛ばせる攻撃となると……(柄に乗せた腕の上に肘をつき、ぶつぶつと考え)
マイカ  何で喧嘩にそこまで…… (言いかけて、考え込み始めたフレイの横顔にラ・バータの霰をお見舞いし始め)
マイカ  あんたもバケモノになるつもりなの。少し冷えなさいよ
フレイ  ぶ、……(ぶるぶると首を振って細かい粒を飛ばし、鬱陶しそうに肩を掃って)バケモノでもなんでもなるさ
フレイ  マイカだって、そうするだろ。大事な人を守れるんなら。……(急に黙り込み、指先についた水滴を真顔で見つめ始め)
マイカ  ………… (溶けた霜が連なって、水滴が膨らむのを見守って)
マイカ  ……マリンのために必要なの?
フレイ  ああ………ああ、そうだ! これがあるじゃないか! マイカ、協力してくれ(返事だったものが叫びになり、顔を輝かせて)
フレイ  (濡れた手も構わず、素早く、大股のたった一歩でマイカへの距離を詰めると、そのまま彼女の手を逃げる前にがっしりと掴み)
マイカ  え、っ (後ずさる隙もなく捕まった。ただ手を逃がすでもなく、驚いた大きな目で、さらに首を捻ってフレイを見上げる)

フレイ  マイカの法撃で俺を狙いまくってほしい。絶対に避けられないだろってくらいに。矢みたいなの出来るか? 刃でもいい
フレイ  (言っている内容に反して、かなり活き活きと、そしてやる気に満ち溢れた金色の目が真剣にマイカを見下ろして)

マイカ  (対して、その内容を聞けば聞くほど、やる気なさそうに耳が垂れて。ひきつった唇から、) ばかなの?
(一言だけ発せられた)

フレイ  馬鹿かもしれないが真剣だ。繊細なマイカならできるだろう? 傷をつけないように。 それでも殺すつもりの、『コントロール』が。
フレイ  大丈夫だ安心してくれ、ちょっと刺さったくらいじゃ全く堪えない。頑丈さが売りだってわかってるだろ、なあ、頼むよ

マイカ  うー……ううー…… (今更のように手を振りほどこうとするが、びくともせず。呆れ混じりの溜め息を吐く)
マイカ  ……そりゃあ、出来るけど……気が狂ってる……こんなばか見たことない……
フレイ  狂ってるとも。なにしろ向こうさんにも言われたからな。異常者だのなんだの……どうでもいいが
フレイ  俺がまともかどうかは関係ないんだ。やってくれるならそれでいい(言いながら、今度はバックパックから包帯を引っ張り出して)

フレイ  (そしておもむろに、なにげなく、当たり前のように、それを目元に巻きつけようとし始める)

マイカ  ちょっと!! (慌てて包帯を握るフレイの手を叩きながら、悲鳴にも近い声をあげて) なに!? 何してんの!?
フレイ  痛い痛い。何だよ
マイカ  何だよ、はこっちの台詞よ!! (猫科の猛獣特有の、ものすごい顔をして) ほんとに死ぬわよ何にもしないうちにそれ!
フレイ  大丈夫だって、スパルタな訓練なら慣れてる慣れてる。彼女を泣かせる気も無いし。な? (ぽんぽんとマイカの手を撫で)

フレイ  (そしてやはりなんてことなさそうに、するすると包帯を巻き、自ら視界を塞いでいく)…あのな、マイカ
フレイ  めちゃくちゃ速い攻撃ってさ、見ても無駄なんだよ。どうせ捉えきれないんだ、視覚じゃさ。そういうとき頼りになるのは、別の感覚
フレイ  ……マイカなら、わかると思うんだが。(だろ?というように、口端を上げながら僅かに首を傾げて)

マイカ  ……わかるって言いたくない…… (げんなりした表情で、諦めたように距離をとり、ウォンドを構える)
マイカ  ……感覚では、分かるわよ。目じゃ捉えられない、なら、別のもので視るしかない
マイカ  でもそのためにこんな真似するあんたは分かんないし分かりたくもない!

フレイ  はは。マイカはいい子だなあ(気楽に笑いながら剣を地面から抜き、構えて。すうっと笑顔が消える。しんと、空気が沈む)

フレイ  ………さあ、殺しに来い。

マイカ  …… (反論しようとした唇が、その声音に閉じられて)

くるりと遊ぶようにウォンドを回せば、沈む空気が急激に冷気を帯びた。
細く吐いた息は白い。ひとつ、瞬きの間に、フレイの注文どおりの、矢のような刃のような氷柱が並んだ。
それらは全てが一つの意志に、木苺色の眼差しと同じ、殺意に冷えてフレイを見下ろしている。

マイカ  ……ギ・バータッ!

刺突を命じる声と共に、氷柱は空気を切り裂いて降り注ぐ。寸分の狂いなく、フレイの体へと。

ひやりと触れた冷気に、フレイはひっそりと笑みを浮かべる。同じようで、まったく違うその冷たさが、一瞬だけ心を温める。
しかしそれも、ひとつ息をするまでのこと。腹に溜められた呼吸はフォトンに混ぜられ、フレイ自身の身体を励起する燃料となっていく。
猫科のクイーンの号令によって襲い掛かる、氷の鏃と斬撃を、感じ取る。感じる。見えないものを見ようと、感覚が砥がれていく。

彼の中では―――時間は緩やかだった。
集中が先を往く。
ひとつ、否、みっつ。
身を捻る。
次によっつ。足を引く。

次。次。次――

不完全な感知は、少なくない裂傷を生んだが、全ての氷が地に落ちたとき、フレイの身体に刺さっていたものは一つもない。

その光景を見届けたあと、ぎらりとマイカの口角が上がる。
フレイが立っている安心と、確かに殺すつもりでいたのにと歯を噛む思いと、それらが引き起こす更なる攻撃性。
これなら、もっと強く、速く。
産み出される氷柱はやはり統一された意志を持って、今度はチェスの駒のように、それぞれが役目を負って迫る。
骨を砕くため、肉を裂くため、牽制のため、大中小様々の氷雪が万の兵となってフレイを襲う。

いつもの彼なら、いいねと呟き笑ったはずだが、今の彼は獣になろうとしている。野生の獣に。
ぴくりと指先が跳ねた後、数手先の氷へ先んじて剣が振られ、一手目の氷からは剣の重さに従って身を退き、追いかける氷には髪の先だけを明け渡し。
一度目よりも、喰らう氷の数は減って、代わりに今度は数本の矢が身体の端に突き刺さった。けれど、怯むことも鈍ることも無く。
そうしてまた、全ての雨が止むと、平然と構え続ける男だけが残る。マイカには視える。氷が致命傷からは遥か遠いと。

マイカ  は、ぁ

疲弊と愉悦と遺憾とが、混じった息を吐く。無数の氷柱を指揮する身体は勿論消耗していたが、それに高揚が勝った。
それならば、と。獣に近付いていく男の足元で、炎が爆ぜる瞬間の、熱風の気配が膨れ上がる。

相性の問題か、それとも急激に研ぎ澄まされているのか、氷の軍隊よりも早く、反応が顕れる。
それこそ獣のように、ひらりと前方に飛び退り、風を巻き込むようにしながら振り向きざまに火柱を斬りつける。勿論斬れる実体などないが、もとより熱を蓄える性質の彼のソードには、炎球そのものと言えるほどの熱量が与えられ、そしてそれは宙に振り翳される。
マイカが浮かべようと氷素を意識した、その空宙に。愛する主に従おうとする彼らを阻むように。

フレイの読み通りに特攻した氷柱たちは、炎熱によってその体の大半を失い、刃によって斬られ、叩き伏せられる。
その残熱すら厭わず、溶けて散った同胞の屍を踏み越えて、槍が、矢が、剣が、叫ぶような風切り音を上げて走る。
獣の足下ではその動きを絡めとろうと、爆心地が動いていく。
熱波と冷気が混ざりあうことで起こる、突風すらフレイの邪魔をするようだ。

喧しいほど多様な轟音が渦巻いていく森の中、きちんとその音を拾い分けるのは難しい。集中力と意思力、それから身体能力の底上げがなければ、見る間に骨を焼かれ、肉を凍らされ、吹き飛ばされていただろう。
疲れは無く、集中は極まっていく一方だったが、ほんの一瞬、白点のように、浮かんだ感覚があった。
野生動物のような感知が、それを視た。
思考するよりも早く、脊髄から命じられ、飛び込む。熱を噴き上げようとする地面を離れ、刺し殺そうとする冷気を潜り―――

フレイ  避けろッ!!!

――――それを指揮する、マイカの元へ。大きく手を伸ばし、抱き込むように。

マイカ  …………あ、っ

小さな悲鳴とともに、炎も氷も空間に溶けた。熱中するあまりに、周囲のフォトンを活性化しすぎたために――――外からやってくる気配に気付かなかった。
フレイに抱き込まれるままに地を蹴って、マイカはその地点から転がるように離れる。

フレイ  (マイカの身を腹で受け止めながら地面を滑り、起き上がるまでの間に引きちぎるようにして視界を開放する)……ちっ

先まで二人が立っていた場所に、大きく抉られた三叉の爪痕と、バチバチと赤黒い雷を放つ、禍華がひらいた獣の鼻面がある。

フレイ  呼んじまったか。狂化ファングだな……  いけるか? マイカ。 燃料切れてるなら休んでろよ
マイカ  はっ (火照った息を鋭く吐きながら、フレイの身体をフォトン励起で撫でる。シフタ。デバンド。それまでフレイと敵対していたすべてがその身体を守る)
マイカ  ……逆よ、すっごい、調子良い……!
フレイ  (くっと喉で笑い、立ち上がった身を低く構える。励起が伝わり、ごうと音をたてて燃え上がる剣を、引き絞って)
フレイ  そうかい、そりゃいいや。 猫同士、獣同士。仲良く遊んでやろうじゃないか? …行くぞ!
マイカ  ……誰が猫よ!!

フレイの背を押し出すように、爆風がすぐその背後で生じた。
連なるような轟音。猛り狂うファングへと、炎の雨が降り注いでいく。
煽られた加速も相俟って、一発の弾丸のように巨体の懐へフレイが飛び込む。
火の粉を鬣で振り払おうとする首元めがけ、剣を振り抜き。
しかし相手も狂化種だけの力はあって、ぎょろりと動いた視線は確かに剣先を捉えている。しなやかに身を翻して避けると、そのステップを利用して奥のマイカへひとっ跳びで襲い掛かる。
剥かれた牙が、瞬間火の色を反射してぎらりと光る。

それを避けるでもなく、凶悪なほどの笑みを浮かべて、マイカは爆炎を壁のように纏う。
突撃すれば焼ける、怯めば背後に太陽のごとく輝く火球が落ちてくるだろう。
しかし高熱の城塞も、大砲も、獣を呼ぶまでの前哨に過ぎない。

マイカ  ……背を、向けちゃ、だめよ

狂化した獣にとって、火の壁に恐怖を覚えても、立ち止まることは許されない。尚も咢を開き、食らいつこうとする獣の背を、焼き焦がしながら、刃が裂いた。

――宙に飛び上がり、金色の目が巨体の獣よりも獣らしく、輝くのが、マイカの瞳に映っていた。

噴き出した血と共に、落雷のような叫びが響き渡り、獣がのたうち回る。
そうして再びぎょろりと、目が動く。
自身を害した者へ。

フレイ  ! 

痛みに暴れていた巨大な体躯が、はっきりと目的を持って、着地したところの自分に迫るのを、フレイの全ての感覚がきちんと捉える。
しかし、慣性に抗える限界がある―――大人の男の横幅よりもずっと大きな獣の前足が、肩を撥ね、腹を引き倒すのを感じながら、瞬間的に励起する。
どさっと投げ出された体が、巨体に潰されて瞬く間に軋んで潰れるのを、どうにか堪え。

フレイ  …ッ

藻掻こうにも不利な体勢で、剣を振るには肩に刺さる爪が邪魔だ。
ただでさえ簡単に人間が潰れる重さである。

フレイ  ……ぐ、っ…!

ファングの横っ面に、太陽が落ちた。
ふたつ。
みっつ。よっつ。
火球はそれぞれ、フレイを捉える前足以外の鋭い爪を砕いて、地を素早く駆ける手段と、攻撃するための手段を一つ奪い取った。
軋み、ひび割れ、漏電を起こすウォンドを下げながら、その一瞬の隙、マイカは吠える。

マイカ  ……フレイ!!

激しい熱波に目を細めながら、それでも指先にどうにか引っ掛けたままでいられたソードを、着火器のような柄を、無理矢理に手繰り寄せる。
ほんの少し肩が裂けたが、痛みの内にも入らない―――地を滑らせるように、投げる。

フレイ  …マイ、カっ

フレイにとっては馴染む大きさの、マイカにとっては大きすぎるその得物を、羽でも拾い上げるかのような軽やかさで掴み。
刃が展開する。纏う炎はその舌を長く伸ばして、敵を呑み込もうと笑っているようだった。
走る。

飛ぶ。

マイカ  は、アッ!!

身を捻る勢いに乗って、ファングの頭部を打ち抜いた。
刃が触れる瞬間、肉も骨も弾き飛ばさんと爆風が上がる。
今度は斬られた悲鳴すら、爆音に掻き消される。灰と蒸気になって、文字通り溶けて消えたファング・バンサーの身体は、一瞬の硬直の後、ずしんと地面を揺らして頽れた。
そしてそれに潰され、ひしゃげた悲鳴が小さく上がる。

フレイ  ……ぐ、えっ…
フレイ  さ、さんきゅ……マイカ……ちょ、……これ、退かす……つだってくれ……(食い縛った歯の隙間から絞り出すように)

マイカ  あっ (小さな悲鳴とともに、武器を放り投げると慌ててフレイに駆け寄って)
マイカ  ちょっ……どきなさいよ、このばか (ファングの屍に無茶を言いながら、何とか力を貸そうと押したり引いたりする)
フレイ  こ、こおり……柱出して……押し上げて、く、れ(腕を震わせながらも、少しずつ巨体が持ち上がっている)
マイカ  ちょ、っと、待って (ウォンドを取り出そうとするも既に壊れたものしかなく。先ほどフレイから借り受けた武器を握ると、)
マイカ  (それを媒体に氷フォトンを呼び集める。それは密集し、凝縮し、太く逞しい氷の柱となって、)
マイカ  (徐々にファングをフレイから引き剥がす)

フレイ  (地面を掴んで引っ張るように死骸の下から這い出ると、ばったりと倒れるように寝転がって)ふ――――………
フレイ  流石に重かった……

マイカ  …… (フレイの裂けた肩に手を置くと、レスタを展開する。皮膚も、肉も、吸着し癒えるようにとフォトンが唄う)
マイカ  ……平気?
フレイ  (心地よさげに目を細めながらマイカを見て、こっくりと頷き)ああ。蜂の巣になってた時に比べりゃ、転んだくらいのもんさ
フレイ  ありがとな、マイカ。手伝ってくれて。……あんなもんであいつに通用するかはわからんが、備えにはなったと思う
フレイ  ……勝って、マリンと一緒に帰ってくるから。待っててくれよ。彼女、マイカに手料理出すの楽しみにしてるんだ

マイカ  …………うん。言ってた。……知り合い? ともだち? の、ひととも、会わせたいって

マイカ  ……マリンと、行って、帰ってくるのね。……それなら、良いわ。あのひとひとりじゃ、すぐ、自分ばっかりダメにしそうで
マイカ  (無意識にか、巨大な刃を、フレイの側にしゃがみこんだ小さな身体で抱き締めて) ……みんなそうやって、ひとりになって
マイカ  あたしを置いていくんだけど。……ふたりなら、だいじょうぶね

フレイ  ………(微笑んでその姿を見て。ゆっくりと口を開き)そうだな。戦う以上……絶対なんて、言えないけど
フレイ  きっと俺は……手だてが何もなければ、それだけが唯一の手段なら、平気で命を差し出すけど。……でも、約束したからな
フレイ  (しばらくぼんやりと空を見上げ、それから再びマイカの方を向き。にっこりと笑う)……昔ほど無責任じゃないってことさ

フレイ  さて、っと(ぐっと腹筋を使って身を起こし、身軽に立ち上がると、レスタによって回復した肩をぐるぐると回し、頷いて)
フレイ  これならマリンに心配かけずに済みそうだ。さんきゅ、マイカ
マイカ  ……べつに。テクターの仕事だし……
マイカ  (ふと、にまりと意地の悪い笑みを浮かべて) 少しくらい、心配されたり怒られた方がいいと思うけど。あたしにこんなことさせて
フレイ  ははは、そういうわけには。今彼女に負担は一切かけたくないんだ。…そうだな、代わりの支払いはソレで頼むよ

フレイ  (そう言って笑いながら、マイカの抱く、ライターにも似た形の大剣を指差して)ソレ、ウォンドの機構も内部にあるんだ。
フレイ  悪くないだろ? 使い心地(マイカの真似をするように、にやりと意地悪な笑顔を見せて)

マイカ  え、…… (フレイに表情を盗られたのか、きょとんと目を瞬く驚いた顔になって) でも、これ、あんた武器どうするの

フレイ  んー……ま、俺は特注武器が必要なタイプじゃないからさ。大丈夫だ
フレイ  潜入するのにデカい武器は向いてないし。いいから貰っとけって。頑丈だぞ? 向いてるだろ?

マイカ  …………。……。………… (うろうろと、フレイと大剣を見ていたが、ふとその刃と会話でもするかのように視線を定めて。)
マイカ  (赤く塗装された外殻部や、鈍い輝きを放つ刃を慎重に撫でて。よく人に慣れた猫のような、年頃の少女が見せるような)
マイカ  (柔らかい笑みを湛えて再度武器を抱く) ……『アグリオス』に似てる。……だいじにする

フレイ  ……?(何を指すのかわからないなりに、マイカの表情を驚きつつも優しく見守り) ……そうか。そうしてくれ
フレイ  じゃ、俺は行こう。準備と調査もあるしな……。またな、マイカ
マイカ  うん (武器を抱きかかえたまま、右手がフレイの袖に伸びて、軽く摘まむ) ……行く前に会うのは、最後だろうから
マイカ  …………いってらっしゃい。またね
フレイ  (今度こそびっくりしたように瞬くも、こそばゆそうに口元を歪めて笑い、ぐしゃぐしゃとマイカの髪を混ぜて)……行ってくる!
フレイ  (そうしてマイカが文句を言うより先に、テレパイプに飛び込んでいった)

案の定、文句を言おうとしたのだが逃げられて。
マイカは不満そうに髪を手ぐしで直すと、大きな武器を抱え直す。そうして。
いってらっしゃい。
小さく口の中でもう一度呟くと自身もテレパイプに向かっていった。

  • 最終更新:2017-07-16 21:12:01

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