再誕の日

最初に告げられたのは、もはやこの体は「化け物」のものではないという結果であった。

躰に宿り、殻のように覆っていた闇フォトン。
それが奥深くから溢れた、光のフォトンによって打ち砕かれ、飛散した。
孵化するように。
超新星のように。
今のルリは、高濃縮された光フォトンの塊だという。

フォトン均衡の崩壊が、体への影響を及ぼしていた。
では、その均衡自体が無くなってしまえば?
崩壊を破ることで得られるもの。

それは、安定であった。

殻を象徴していた「デューマンの躯」を脱ぎ捨て、本来の姿に近い体を取り戻し。
光のフォトンはルリを守るように馴染み。
人並みの生命維持を。
人並みの寿命を、もたらした。

「……わた、し?」
「ええ」

検査を行ったその人の優しげな瞳が、細く笑う。

「15年だなんてとんでもない。80年でも、100歳でも生きられる。勿論、体調管理は必須ですけどね」

先に泣き出したのは、その結果を横で聞いていたロミオだった。
追うように、ルリも嗚咽する。

悲願は思わぬ形で成った。
不当に脅かされずに、二人で生きていける。
いつ、また原因もわからず動けなくなる日に、怯えることもなく。
掌を重ね合わせた。
額をすり寄せ声を震わせ。
確かに感じた、永久にも似た時間を、過ごしていける。

愛した少年のために殻を破り、再誕した。
それが寄り添うための恩赦を与えた。

二対の双眸から溢れた涙が、混じり、弾けて。
綺羅々と光る。

「ロミ、オ」
「……っる、り、るり、もう」
「うん、うん」

少年の右手。
少女の左手。
どちらからともなく握り締め、互いの甲に唇を寄せた。

いつかその言葉を紡ぐだろう最期の日。
皺だらけの手を取って、微笑んで。
「幸せな人生だった」と心から伝える日を、想う。

「ルリ」
「ロミオ」

悲願は、成った。

しかし知らせは、それだけでなかった。
次に告げられたのは、ロミオに混在するD因子と、ルリの光フォトンとの関連性である。
何が因果かは分からないが、互いに呼応し、働きあっている動きが見られるという。
光はDの昂ぶりを感知し、Dは光によって凪いでいく。

ロミオのDとしての力はルリによってとりあえずの制御が可能、という要約である。

先のルリの変化といい、やはり前例のない特殊なものだという。
特にロミオのDは、ダーク・ファルス――――ダーカーの上位とも言える存在の、遺灰から為るものである。
それを押さえ込むほどの、力となれば。
他すべてのD因子には関与できない、「代償」と呼べる制限があるものの、驚異であることに違いはない。
あまり公には知らせない方が良いだろう、とのことであった。

「……大変なことになった」
「うん……」
「……これで」

呆けたような、それでいて、どこか愉悦を含んだ声音で。
ロミオは満足げに微笑んだ。

「これで僕はもう、ルリから離れられない」

赤面。
肩を叩く音。
苦笑と楽しげな声。

二人が旅立つ前の、出来事であった。

  • 最終更新:2014-06-09 21:29:47

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